前回に続き、紙をモチーフにして独特の趣を表現する文様を取り上げます。
今日は地紙文(じがみもん)です。
1.地紙文とは
扇の紙の部分を地紙といいます。(地紙は、扇の種類によって何枚かの和紙を貼り合わせて作られ、蛇腹に折りたたんで扇の形になっていきます)
地紙文はこの地紙を意匠化したものです。華やかさを増したり、メリハリを持たせて強調したり、みやびな雰囲気を表現しているように感じます。
私は以前、この文様は「扇文(おうぎもん)」と同じだと思っていました。
しかし、地紙文と扇文では趣が少し異なるようです。
前回ご紹介した扇文は吉祥文として華やかさと明るさが強調されるのに対して、地紙文にはさまざまな風情のものがあります。
2.資料から
資料から地紙文を見てみます。
①王朝風
△変り織り地に刺繍の帯(長崎巌監修、弓岡勝美編(2005)『きもの文様図鑑』平凡社より)
地紙が重なっているようなデザインで、上はみやびな源氏物語風です。
②侘びた風情
△羽二重の帯(長崎巌監修、弓岡勝美編(2005)『きもの文様図鑑』平凡社より)
このような地紙を「破れ地紙」といい、古い扇から取り外した貴重な図柄であることを暗示するそうです。
③能装束
△赤地扇面観世水文様縫箔*/観世文庫蔵(野村四郎・北村哲郎(1997)『能を彩る文様の世界』檜書店より)
*縫箔(ぬいはく)…摺箔(すりはく)という、金や銀の箔文様を貼り付けた布の上に刺繍を施した小袖。
△紫地扇面に枝垂桜流水文様長絹*/彦根城博物館蔵(野村四郎・北村哲郎(1997)『能を彩る文様の世界』檜書店より)
*長絹(ちょうけん)…主に舞を舞う役の表着として用いられる広袖形の装束。薄地の絽や紗の織り方で、脇縫いがない仕立てになっている。摺箔の上から羽織るようにして着用する。
3.着用例
①地紙の形の絽ざし
絽ざしの着物です。
この絽ざしは、地紙の形の絽布を絹糸で縦方向に隙間なく刺して埋め尽くしたものです。
それぞれを着物にアップリケのように縫い付けています。
絽ざしは重厚感があるので、もはや扇の地紙とはかけ離れた雰囲気になっています。
(絽ざしについては 以下の記事で取り上げました)
②小紋の柄
綸子地に地紙を置いたデザインの着物です。
いろいろな地紙を敷き詰めたような小紋柄で、いずれも伝統的な江戸小紋の文様と思われます。
地紙はパターンとして使われているので、扇子の地紙のイメージは薄いような気がします。
能「二人静(ふたりしずか)」にちなんだ帯なので、舞扇のつもりで地紙文のきものを合わせました。
冊子文・色紙文・扇文・地紙文はいずれも和紙のものを文様にしていて、きものと和紙のコラボレーションを楽しむことができる柄です。
また地紙文で例にあげたように、紙をイメージさせない使われ方もあり、きもの文様の奥深さ、多様性が感じられました。