今日は、大切にしていた「しな布(しなふ)」のテーブルセンターを手提げにリメイクしたお話です。
1.大切なテーブルセンター
①しな布との出会い
しな布は、科木(シナノキ)の樹皮から繊維をとって織ったもので、縄文時代から衣装や装飾品などに利用されてきました。まだ布とも呼ばれる古代の布*です。
*古代の布…沖縄の芭蕉布、静岡の葛布とともに、しな織りは「三大古代織」とされており、平成17年には「羽越しな布」として国の伝統的工芸品指定を受けています。
私がしな布に初めて出会ったのは、今から36年前でした。
父が山形を旅行し、お土産にテーブルセンターを買ってきたのです。
母はとても喜び、その日から、家で一番大切なテーブルセンターになりました。
時おり科布に触れながら、織り上げるまでにはたいへんな時間と労力が必要なこと、また、それを藍で型染めされたものがいかに貴重なものかを幾度となく聞かされたものです。
私はまず、色が素敵だと思いました。
薄茶の樹皮の色と藍染めの組み合わせは、今まで目にしたことがないような深い色合いで、粗い織りで涼し気なはずなのに、なぜか暖かみを感じたものです。
でも、その手触りは布と呼ぶにはザラザラしていて不思議でした。
しな布は麻よりもザラザラしています。
②田中昭夫氏の型染め
後に分かったことですが、そのテーブルセンターは正藍型染師・田中昭夫氏の作品でした。
△田中昭夫氏(1935~2019)(『七緒』vol.49 2017年 プレジデントムックより)
田中さんは生涯を藍染めの仕事にささげた藍の型染師です。
埼玉県川口市「田中紺屋」で藍を作り(藍建て)、型を彫り、染める作業を一人でこなしていたそうです。
田中昭夫さんは、昨年2月に83歳で亡くなられました。
長い間大切にしてきたテーブルセンターですが、私は田中氏の逝去を知ってから「これからはこの布にも外の空気を吸わせてあげたい」と考えるようになりました。
作品としての形を変えてしまうのはNGかもしれませんが、植物のシナノキやタデアイを原料として作られているのですから外のほうが自然ですし、きものと同じで身につけたり人の目に触れてこそ布が活かされると思ったのです。
2.テーブルセンターを手提げに
①布のエコバッグを土台に
大切な布なので、切ったり縫い込んだりはできません。そこで、既成の布バッグに付ける方法を考えました。
未使用のエコバッグがありました。
素材は綿とポリエステル。幅がほぼ同じなので、これを使って作ります。
テーブルセンターを半分に折り、フリンジ部分は折り返します。
裏が藍色なのは、刷毛染めとは違う、本当の藍染の証拠です。
裏は見えなくなりますが、テーブルセンターでバッグを覆うようにして作りたいと思います。
②エコバッグの長さを調節
バッグのほうがこれだけ長いようです。
バッグの下を縫いました。
縫い代を片側に折り、縫い止めます。
バッグの長さが短くなりました。
③しな布でバッグを包む
テーブルセンターとバッグの端を待ち針で合わせていきます。
しつけをかけます。
紺の木綿糸を使って、このようにくけていきます。
持ち手部分はしっかりとめます。
上部が縫い終わりました。
④脇を縫い止める
脇を縫う糸はポリエステル補修糸を使用しました。
太くてハリがあり、手触りがしな布と似ています。
バッグの脇縫いあたりに両方の科布の端を縫い止めていきます。
バッグのほうがやや大きいので下から布が見えてしまっています。
布を隠すように縫い閉じました。
脇はこのようになりました。
しな布を最大限に使いたいので、布が重ならないようにするために少し手間がかかりました。
布に負担をかけないように仕立てもザックリ、布の風合いと同じです。
⑤マチを作る
安定感を持たせるため、マチを作ります。
袋を裏返し、底の両端を縫います。かどが三角になります。
この部分が唯一縫い込まれてしまいます。
表に返すとこうなります。
出来上がり
上下逆ですが落款も少し残し、アクセントになりました。
3.使用してみる
①単衣の紬に
縞の単衣に合わせました。
単体で持つなら、単衣か夏のきものが涼しげで良いようです。
ハンドバッグは別に持ち、サブバッグとしての利用なら、通年使えそうな気がします。
②インド更紗の帯
更紗の帯を締めました。
木綿の古いインド更紗で「作り帯」に仕立てたものです。
手触りはとても柔らかですが、粗く太めの手紡ぎ糸で織られた厚手木綿なので「鬼更紗・鬼手更紗」といわれれています。
このざっくりした帯と、しな布の素朴さが合うような気がしました。
明るい色のきものと、渋い地色のしな布のバッグは相性が良いようです。
一枚の藍染しな布が夏用のバッグに、また通年使えるサブバッグになりました。
何の工夫もないシンプルな手提げですが、長く大切にしたいと思います。