先日、日本民藝館で開催された「藍染の絞り 片野元彦の仕事」展に行きました。
藍と白の力強い絞り染めの魅力をご紹介します。
1.片野元彦と長女かほり
①片野元彦
1899年(明治32年)名古屋に生まれました。
若い頃は画家を志して岸田劉生(きしだりゅうせい)に師事しますが、劉生没後は染色工芸の道に入ります。
そして昭和31年、57歳の時に民芸運動の創始者、柳宗悦(やなぎむねよし)から藍染絞りの再興を頼まれ、同時に陶芸家の河井寛次郎(かわいかんじろう)、型絵染め作家の芹沢銈介(せりざわけいすけ)へ師事することを勧められます。
57歳で藍染絞り作家としての道を歩み始めた片野元彦は、それ以降、天然藍を使ったきものや服地、暖簾などを制作し続けました。
また独自の技法を確立して「片野絞り」と称される個性的な作品を作り出し、その技は現在に継承されています。
片野元彦は昭和50年、76歳で亡くなりました。
参考:『民藝』2018年8月号(日本民藝協会)、展示会チラシ
②長女かほり
片野かほり(1932-2016)は、いつも父の傍らに寄り添って父の仕事を助け、二人三脚で絞りに情熱を注ぎました。
父の死後も仕事を引き継ぎ、力強い作品を作り続けましたが、平成28年、84歳で亡くなっています。
△片野元彦とかほり(1972年)(藤本巧撮影)『民藝』2018年8月号(日本民藝協会)より
2.作品
日本民藝協会の機関紙から引用した写真ですが、片野元彦と片野かほりの作品をご紹介します。
①片野元彦の作品
△「木綿地藍染熨斗目小華繋紋折縫絞着物」(もめんじ あいぞめ のしめ こばなつなぎもん おりぬいしぼり きもの)(1960年代後半 工房草土社蔵)
最も代表的な片野元彦の作品で、展示会のチラシに印刷されていたものです。
△「木綿地藍楊梅染松皮菱紋巻上絞」(1963年 日本民藝館蔵)(もめんじ あい やまももぞめ まつかわびしもん まきあげしぼり)前掲資料より
△「木綿地藍染亀甲(きっこう)紋折絞」(日本民藝館蔵)前掲資料より
②片野かほりの作品
△「ワッフル地藍染折縫絞飾布」(2012年)(第86回国展出品作・日本民藝館蔵)前掲資料より
△「茶綿地藍染絞飾布」(2013年)(第87回国展出品作・日本民藝館蔵)前掲資料より
③私の名古屋帯から
私が母から受け継いだ片野元彦作品の中に、日本民藝館に展示されていた布と同じ文様の帯があります。
「華段経縞紋折縫絞」(はなだん たてじま おりぬいしぼり)というもので、展示品は木綿の広巾布でしたが、帯は紬の名古屋帯です。
3.絞りの技法について
ここで、上記作品の説明にある絞りの名称について触れたいと思います。
①折縫絞(おりぬいしぼり)
下絵を描いた布を折りたたみ、折山の際を縫って絞るものです。
②巻上絞(まきあげしぼり)
下絵にそって平縫いしたところを縫い縮め、その根元から上へ向かって巻き絞っていくものです。
③片野絞り
展示作品の説明には使われていませんが、片野元彦の絞りは「重ね縫い絞り」または「片野絞り」と言われます。
防染には、板や棒の代わりに、折り畳んだ当て布を上下に当てる技法で、重ねた当て布の上から文様にそって一針一針縫います。
厚みがあるので針が通しにくく、難しいそうです。藍染すると、独特のぼかしが出ます。当て布にも藍を吸わせる贅沢なしぼりです。
この絞りの技法は今でも「片野絞り」として、絞り作家たちに受け継がれているようです。
ぼかしが美しい片野絞りです。
絞りについては、以前の記事で「絞りの技法と道具」、「いろいろな絞り」として取り上げています。
次回は、5月に日本民藝館で行われた写真家、藤本巧氏の講演会についてと、私が受け継いだ片野元彦の作品についてご紹介します。