生地

郡上紬

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今日は岐阜県で作られている郡上紬(ぐじょうつむぎ)をご紹介します。

1.郡上(ぐじょう)紬とは

岐阜県郡上市八幡(はちまん)町で織られる紬織物。素朴ながら大変魅力的な織物です。

以下、郡上紬特約店「たにざわ」のウェブページと、社長の谷澤周作さんから伺ったお話をもとに、郡上紬についてご紹介します。

 

2.郡上紬の歴史

①自家用紬

古くから郡上八幡の農家では屑繭をためて紡ぎ、自家用として手機で紬を織っていましたが、昭和に入ると衰退していきました。

②戦後の復興

この地の紬を再生し、新たな技法を生み出して「郡上紬」を創ったのは宗廣力三氏(むねひろ・りきぞう1914年~1989年)です。

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△宗廣力三 『衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

彼は八幡町出身で戦前は郡上町開拓活動のリーダーとして活躍していました。

戦後1952年、開拓農場内に「郡上郷土芸術研究所」を設立しました。

1958年「郡上工芸研究所」と改称して故郷の八幡町初音に工房を移転し、生活をともにしながら染織を教える場を開くとともに意欲的に製作を始めました。

③改良と実験

紬の質改良のためにエリ蚕(インド北部~ベトナム~中国南部が産地の野蚕)と羊を飼育し自ら糸をとったり、実験的な織りや染めを試みました。

④どぼんこ染

宗廣力三氏が開発した染めに「どぼんこ染め」があります。

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△どぼんこ染めによるきもの 『衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

染料液に糸を垂直に入れて、糸の繊維が染料を自然に吸い上げる力を利用した染め方です。

⑤紬で初めての指定

宗廣力三氏は1982年に紬織としては初めて個人で重要無形文化財に認定されました。氏の作品は鎌倉近代美術館で展示会が催されるほど美術品としても高い評価を得ています。

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△宗廣力三作の帯 『衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

 

3.郡上紬・こだわりと信念

①糸

郡上紬の特長は春蚕(はるご・しゅんさん)*から作られた糸です。

*春蚕…4月中旬に孵化した蚕(かいこ)。夏蚕、秋蚕よりも繭(まゆ)の量が多く良質。

春蚕が作った春繭から本真綿を手で紡ぎ、糸を作ることで出来上がりの暖かさと柔らかさ、肌触りの良さを生み出しています。

②糸染めと織り

糸は天然草木染めです。茜(赤)、苅安(黄)、藍、阿仙(茶)などを使い、染材と時間をかけて何十回も繰り返し染めます。

ですから堅牢で退色がなく、着るほどにツヤと味わいが出てくるのです。

以前(3~40年前)は無地の郡上紬もよく作られていたそうですが、無地といえども深い色合いを出すために似た色目の糸を28色も作り、その糸で無地の紬を織り出していたそうです。

高い技術が必要とされる郡上紬の織り職人さんも以前の30人以上から現在は2人に減ってしまったとのことです。

③継承

宗廣力三氏の技術は長男・宗廣陽助氏をはじめ、弟子の作家によって引き継がれています。

しかし、郡上紬の工房は非公開です。織り子さんたちの作業の集中とプライバシーを第一に考えているからだそうです。

 

4.たにざわ

30年ほど前、両親は郡上八幡で行われる郡上おどり*を見物に行きました。

*郡上おどり…岐阜県郡上市八幡町(通称郡上八幡)で開催される伝統的な盆踊りで、日本三大盆踊りのひとつ。国の重要無形民俗文化財に指定されています。
そして郡上紬特約店「たにざわ」で郡上紬を購入しました。
http://www.tumugi.com/
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△30年前の「たにざわ」前での祭りの様子

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△「たにざわ」にて

先代社長・谷澤幸男さん(故人)と夫人の幸代(さちよ)さん。後ろの女性は現社長夫人。

 

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△購入した郡上紬

藍の横段ぼかしです。

 

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△生地の拡大

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△郡上紬を着て家で過ごす母

 

5.社会学者 鶴見和子さんの郡上紬

社会学者の故・鶴見和子さんは無地の郡上紬を愛用していました。

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△藍鼠の無地の郡上紬 (『きもの自在』鶴見和子(晶文社・1993年)より)

きもの自在』によると、1990年に郡上八幡で講演をした時「たにざわ」で購入したそうです。

以前から郡上紬に興味があった鶴見さんは
「郡上紬を見たい一心で、講演を引きうけました」
と書いています。

さらに、「これは藍にはちがいないけれど、さまざまな色の糸が使ってあります。赤、白、鼠、青などの色を隠し味にして、この色が出ている。でも玉虫じゃない。そして温かく、軽い。」ときものの説明をしています。

合わせた帯はメキシコのストールでつくったものだそうです。

これらの取り合わせはある「出会い」から生まれたとのこと。詳細は『きもの自在』第二章〈きものは出会い〉に書かれています。

日常をきもので過ごし、国際会議も山登りもきものでこなした鶴見和子さん。
『きもの自在』は私の愛読書の一つです。

 

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△鶴見和子さん (前掲書より)

「鶴見和子(1918年~2006年)社会学者。上智大学名誉教授。国際関係論などを講じたが、専攻は比較社会学。和歌や日舞、着物などの趣味の豊かさでも知られ、その方面の随筆、写真本などの刊行物もある。」 (Wikipedia「鶴見和子」より抜粋引用)

 

6.着用例

①4月に

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4月下旬。爽やかなイメージで白地の帯を合わせました。

 

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すくい*の技法で山並みを織り出しています。(波模様にも見えます)

 

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*すくい織…綴れ織りに似た技法で、多くは紬糸を使って織ります。木製の杼(ひ)という織機用具によこ糸を通して、たて糸をすくいながら織っていきます。

 

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バッグもブルー系の無地(革製)で涼感を出しました。

②10月に

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10月上旬に着用しました。赤紫の帯やバッグを合わせたら、きものの中からも紫色が引き出されたようです。

 

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でもよく見ると紫色ではなく、赤と青の糸の重なりでした。

 

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無地の綴れ帯、実は段ぼかしになっています。

 

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帯揚や帯締め、根付けで楽しみました。

 

7.郡上紬展示会

毎年春のお彼岸に東京で郡上紬を見ることができます。

来年は
日時:2017年3月21日、22日
場所:東京・港区南青山の梅窓院
http://baisouin.or.jp/

「春彼岸物産展」で郡上紬が展示されます。

 

なお、宗廣力三氏の代表作は岐阜県郡上八幡にある「郡上八幡博覧館」、「郡上紬特約店たにざわ」で見ることができます。

郡上博覧館
http://www.gujohachiman.com/haku/

 

 

 

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