イベント訪問

時代裂(じだいぎれ)を鑑賞する・その1

2015年9月27日

image

この夏、時代裂(じだいぎれ)の研究家 鈴木一弘氏の個展が東京で開催され、見に行きました。

今日はその報告をします。

1.時代裂とは

室町時代から江戸時代にかけて中国、東南アジア、インド、ペルシャなどから輸入した染織品のこと。
名物裂(めいぶつぎれ)とも呼ばれ、武家や社寺、茶人に珍重されました。

金襴(きんらん)・緞子(どんす)・更紗(さらさ)・間道(かんどう)・竹屋町(たけやまち)など、数多くの種類があります。

image

image

image

上から金蘭・緞子(純子)・間道
出典:鈴木一(2007)『名物裂事典』鈴木時代裂研究所

 

2.鈴木時代裂研究所 と鈴木一弘氏

鈴木家は三代にわたって京都で時代裂のコレクション・研究・復原*を行っており、http://sjk-kyoto.com/は1985年、二代目の鈴木一氏(1925~2009)によって設立されました。

*復原…広義では復元と同じですが、文化財や美術分野では使い分けているようです。
〈復元〉…失われた建物などを当時のように、(又は推測に基づいて)再現すること
〈復原〉…当時の材料や部分品、文献が残っていて根拠が確かなものを再現すること。

時代裂研究は昔の裂の染料や織り方を細かく分析してから同じように再現するので〈復原〉が使われています。

一弘氏は研究者として三代目。二代目と同様に時代裂を研究し、自ら復原・製作を手掛けます。さらに、オリジナルの作品を創作する芸術家でもあります。

_DSC1229

鈴木一弘氏

 

3.印象的だった展示会の作品

 

①裂象嵌(きれぞうがん)の花瓶

今回の展示会で圧倒的な存在感を示していたのは美しい青磁の花入れでした。

15071903

15071902
出典:いずれも鈴木氏の個展案内状から

これが個展のタイトルにもなっていた「青磁裂象嵌*花瓶(せいじ きれぞうがん かびん)」です。

*象嵌(ぞうがん)…工芸技法で一つの素材に異質の素材をはめ込むこと。
象は「かたどる」・嵌は「はめる」という意味です。

青磁の花入れに時代裂を嵌めるという驚きの発想で生まれた作品は評判となり、上海工芸禮品博物館と台湾故宮博物館に納入されたそうです。

花瓶に嵌め込まれた趣の違う時代裂たち……。どの角度から見ても楽しめる贅沢な工芸品です。

鈴木氏によると、その日の気分やお客様に合わせて花瓶の置き方(向き)を変えて時代裂を楽しむのが面白いとのこと。

渋い色合いの縞「間道」やキラキラの金箔紙がたっぷり織り込まれた「金蘭」など、全く雰囲気の異なる裂を嵌め込んでいるのに品の良い統一感があるのは、長い歴史を経た時代裂ならではの味わいによるところです。

②葛城裂(かつらぎぎれ)

会場で静かに輝きを放つ美しい裂がありました。「葛城裂」といいます。

15071901

この写真は実物を撮影したのではなく、平成23年日本橋三越で開催された「還暦記念・鈴木一弘染織展」小冊子に掲載されていたものです。

鈴木氏が復原に成功したこの時代裂は、中国・明時代(1368~1661)に作られ輸入されたものだそうです。

遠くから見ると細かい小紋柄のようで華やかさはありませんが、近寄ると裂が放つパワーに驚きます。

鈴木氏によると、昔の日本人は小さい柄を好む傾向にあったようで、「数百年も前にこの原反を求めた日本人の気持ちは如何様であったかと思うと楽しくなります」と解説に記しています。

柄は細かい亀甲柄で金箔糸で織られています。中にも青い亀甲があります。青の主張が強いようにも見えますが、茶入れの袋(仕覆・しふく)のように布が立体的な曲線を描いた時の金の輝きはたいそう美しいものだったに違いありません。

 

_DSC1222

葛城裂のふくさを手にした鈴木一弘氏。横は葛城裂の帯です。

③竹屋町(たけやまち)

不思議な名前ですが、時代裂の一種です。京都の竹屋町通りで作られたので、このようにいわれます。
紗の生地に金糸や色糸で刺繍を施したもので、掛け軸の表装に使われます。

鈴木氏は自ら竹屋町用の紗の生地を織り、それに刺繍をして昔の物を再現したり、オリジナルの作品を作っています。

 

15071902 (2)

鈴木氏製作の竹屋町
出典:個展の案内状から

多くの辞書や図鑑、インターネット、美術館では、今も「竹屋町は”織物”である」と説明しているものが多いそうですが、竹屋町は刺繍であるとのことです。古い竹屋町裂を分析し、実際に製作することによってそのことを証明したのは鈴木一氏と一弘さん親子だったのです。

透ける生地の紗に施された繊細で優美な刺繍はとても美しく、昔の日本人の細やかな感性が伝わります。「紗ということは夏用だったのですか?」と私が質問したところ、「紗を使っていても夏用というわけではなく、むしろお正月用に使われた高価な掛け軸だったようです。」と教えて下さいました。

 

④その他

会場にはふくさ・数寄屋袋・袋帯・ネクタイ・バッグなど、復原された時代裂を使った個性的なグッズがたくさん並んでいました。

_DSC1227

友人と鈴木さんを囲んで。私のバッグも時代裂(更紗)です。

後ろにならんでいるのは袋帯です。

他の時代裂については次回ご紹介したいと思います。

-イベント訪問,
-, , , ,

0
Would love your thoughts, please comment.x
()
x