7月に行われた 能「船弁慶」特別講座 を取り上げます。
1.四流の能楽師共演による講座
金春流能楽師・中村昌弘さんが進行役の特別講座は今年で2回目。
テーマは「船弁慶」です。(1回目はこちら)
昨年同様、国立能楽堂大講義室で行われました。
[講師]
喜多流・大島輝久さん
宝生流・高橋憲正さん
観世流・武田宗典さん
流儀の違う同世代能楽師が集まり、トークと実演で盛り上がる人気の講座です。今年も約100名が参加しました。
2.当日のきもの
白地・絽のきものです。(紫の薔薇の意匠)
羅の帯
紫と白の帯締めにトンボ玉の帯飾りを合わせました。
3.能「船弁慶」とは
①あらすじ
頼朝との不和で都落ちした義経は摂津国大物浦に着きました。義経は弁慶の進言により、ここまで供してきた静御前を都へ帰すことにします。静は涙ながらに別れの舞を舞います。
△前シテ・静御前 (講座パンフレットより)
一行が船出すると急に嵐になります。
すると海上に滅亡した平家一門の霊が現れ、平知盛の怨霊が義経に襲いかかります。
義経の応戦と弁慶の祈りで亡霊は海に消え去りました。
②みどころ
前半の主役(前シテ)は静御前、後半の主役(後シテ)は平知盛です。
一人の能楽師が優雅な舞を舞う静御前と、動きの激しい怨霊・平知盛を演じ分けるところがみどころです。
また、子方(子役)が義経を演じるのが決まりで、その可愛らしさは観客の目を引き付けます。
③作者
観世小次郎信光(かんぜこじろうのぶみつ)(1450~1516)
室町時代の猿楽師(能楽師)・猿楽作者である信光の作品は、華やかで劇的なスペクタクル性が特徴で、初心者でも楽しめる作品が多いです。(船弁慶・紅葉狩・道成寺・遊行柳など)
4.4人のお話で印象に残ったこと
①子方時代の思い出
<喜多流・大島さん>
船弁慶の子方は8回ほど経験。
「前半はテンポが遅いので、とにかく眠気を我慢するのが大変だった。」
<宝生流・高橋さん>
船弁慶の子方は4~12歳の間に年1回ペースで経験(約10回?)
「父が大変厳しく、少しでも動いたりミスしたら「殺される!」と常に恐怖を感じていたので、全然眠くならなかった。」
「怖い父だったが、ある日船弁慶で狂言方が行う舟を漕ぐ所作が面白くて家で真似していたら、”こうして漕ぐんだよ”と丁寧に教えてくれたことが印象に残っている。」
<観世流・武田さん>
船弁慶の子方は5~10回?
「地方公演で能が終わりほっとして退場する時、”よっ、日本一!”と声が掛かったことが忘れられない。(歌舞伎と違い、能は客席から声が掛かることはないので)」
<金春流・中村さん>
船弁慶の子方は4回経験。
「能が好きなので、ただただ楽しかった記憶のみ。」
※ 中村さんは能の家出身ではなく能楽師になった方です
②「船弁慶」の小書(こがき・特殊演出)
小書は各流儀でかなり違いがあります。同じ詞章(台本)でも流儀による工夫がなされているようです。
<喜多流>
◇真ノ伝(しんのでん)
この演出では、海中で舞うような足拍子”波間ノ拍子”をやることもある。
通常、舞には感情表現がないが、シオリ(泣く所作)が入ることもある。
<宝生流>
◇後ノ出、留(とめ)ノ伝
<観世流>
◇前後之替(ぜんごのかえ)
◇重キ前後ノ替
知盛が白装束になる演出も。
<金春流>
◇遊女ノ舞
装束が変わり、囃子の笛も特殊なものになる。
③子方をどのように指導したらよいか
4人の中にはすでに父親として子供を教えている人もいます。(大島さん・中村さん)
<喜多流・大島さん>
「子供には特性があり、教え方も違う。
ただ、本番の舞台は子供がびっくりするほど大人たちのテンションが高いので、稽古の時から常に真剣に、テンションを上げた状態に慣らすことが必要。」
<宝生流・高橋さん>
「能に関しては、父親は子供にとって”恐怖”の存在で良いと思う。」
<観世流・武田さん>
「子供は気分に波があるので、やる気になっている時に集中的につきっきりで教えるようにしている。」
<金春流・中村さん>
「息子(小1)と同じ舞台に立っていると、自分が集中できずに困る。
面をつけている時は周りが見えないためか、特に子供のことが気になってしまう。」
4人の皆さんは小さい頃から厳しい修行を積み、現在に至っていることがよくわかりました。
そして楽しいトークの中からも、能楽シテ方としての自信と緊張感が伝わってきました。
次回は当日の実演についてレポートします。
5.能「船弁慶」公演予定
2016年11月26日(土)
「第二回金春流能楽師 中村昌弘の会」
が開催されます。
講座の進行役である中村昌弘さんによる「船弁慶」です。
〈遊女の舞 替ノ出〉という小書(特殊演出)付きです。
子方は中村さんの息子・千紘くんがつとめます。
△公演のチラシより
http://kakedashino.blog11.fc2.com/blog-entry-1127.html
続く――