生地/柄

更紗(さらさ)と胡麻竹(ごまだけ)

2024年9月1日

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更紗の着物というと今では昭和レトロなイメージかもしれませんが、小物として持つと魅力が際立つ気がします。

前回に続き、私が大切にしている更紗模様の日傘をご紹介しながら、「更紗」についても取り上げたいと思います。

1.更紗といってもいろいろ

①更紗(さらさ)とは

更紗は本来、インド発祥の木綿地の模様染め製品のことをいいます。

花鳥、樹木、ペイズリー、人物や動物、幾何学模様など、民族独自の図柄を手捺染(てなせん)、つまりハンドプリントしたものです。

その影響を受けてアジアやヨーロッパで様々な類似品が作られ、産地によってジャワ更紗・ペルシャ更紗・和更紗などと呼ばれています。

②更紗の種類

インドを起源とする更紗は、インドネシアやタイ、日本、ヨーロッパに輸出されて世界に広まりました。

それぞれ特徴があるようです。

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△インド更紗(出典:成田典子(2014)『テキスタイル用語辞典』テキスタイル・ツリー

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△ジャワ更紗(出典:前掲書)

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△イギリス更紗(出典:前掲書)

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△ペルシャ更紗(出典:前掲書)

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△和更紗(京・堺更紗) 「白地菊手鞠文様更紗」(上)・「藍地唐花文様更紗」(下)18-19C(出典:吉岡幸雄(2014)『更紗 (日本と世界の更紗) 』紫紅社

日本における更紗は木綿だけでなく絹に染めたものも多く、異国情緒あふれるお洒落な着物や帯として愛されてきました。

これは確かではありませんが、昭和40年代に着物の世界に更紗ブームがおこっていたのではないかと考えます。少なくとも母は「更紗」に特別な憧れと愛着を持っていましたし、周りでも更紗のものをよく見かけた気がします。

歴史がありながらモダンな模様として魅力的な更紗ですが、子供の頃の私はその良さが理解できず、謎に満ちた不思議な模様だと思っていました。

③更紗の着物や帯

大人になるにつれて更紗に親しみが湧き、現在私が愛用している着物と帯には以下のようなものがあります。

 

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△草木染めの紬 単衣(絹)

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△結城紬に染められた更紗(絹)

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△紬の羽織(絹)

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△茜染めの木綿更紗帯

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△鬼更紗(おにさらさ)の帯(粗く太い手紡ぎ糸で織った木綿に染めた更紗のこと)

どれも着るほどに味わいを感じ、更紗の世界に魅了されています。

 

2.日傘

①木綿のインド更紗

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お気に入りのこの傘はやや厚手の木綿製。

 

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草花がモチーフの可愛い幾何学模様です。

これはインドのブロックプリント(木版に染料をつけ、生地に押して柄を描く染色技法)の一種で、赤(茜)や青(藍)を基調とした「アジュラックプリント」の更紗です。

「アジュラック」とは、アラビア語で青を意味する「アズラック」が語源とも言われています。遠目では赤い傘ですが、拡大すると青い部分が模様のポイントになっていることがわかります。

 

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△アジュラックの更紗(出典:成田典子(2014)『テキスタイル用語辞典』テキスタイル・ツリー

②アジュラックプリント

昨年大倉集古館で開催された展示会「恋しこがれたインドの染織」(2023年8~10月)でもよく似た布を見ることができました。

 

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△儀礼用布 グジャラート州(インド)(手描染、木版捺染、媒染、防染)木綿 18世紀後期(展示会図録より)

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△拡大

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儀礼用布 グジャラート州(インド)(手描染、木版捺染、媒染、防染) 木綿 18世紀後期~19世紀初期(展示会図録より)

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△拡大

いずれも約100×260センチの大きな布に精緻な模様が施されていて、18~19世紀の木綿とは思えない赤の鮮やかさに驚きました。

現代でもアジュラックプリントの布は日常的に使われています。

 

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私は最近この更紗の生地を購入し、端をまつり縫いして大きめの風呂敷にしました。

薄手の木綿なのでかさばらず、着物を包むときに便利に使っています。

 

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△風呂敷アップ

※ こちらの店で購入しました↓
https://fumitsuki23.stores.jp/

③日傘の持ち手部分

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傘の柄は象牙でできており、幅の広い2面に胡麻竹が埋め込まれるように貼られています。

傘の骨だけでなくこの持ち手も大変丈夫で、胡麻竹は〈模様〉+〈滑り止め〉の役割を果たしているようです。

 

3.胡麻竹(ごまだけ)

①胡麻竹とは

胡麻竹は聞き慣れない人も多いかもしれませんが、これも更紗と同じく昔から日本人に愛されてきたものです。

表面に胡麻のような黒いぶつぶつがある竹のことで、竹が半枯れ(立ち枯れ)状態になると現れます。

温度差のある京都で生まれたもので、建築用だけでなく装飾用、工芸品、茶道の茶杓などで珍重されています。

私は胡麻竹の下駄を若い頃から愛用してきました。

桐に胡麻竹が貼り付けてある胡麻下駄は、その黒いぶつぶつのせいか滑らないので歩きやすいです。また、素足で履いても跡が付かず、いつまでもきれいに履ける点が嬉しいです。

 

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以前は赤い鼻緒の胡麻下駄でしたが

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鼻緒を替えて

 

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地味なカジュアル着物に合わせています。

②茶道具として

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△胡麻竹の茶杓(裏千家四世 仙叟宗室(せんそうそうしつ)*作)(出典:『太陽コレクション 茶の湯歳時記・冬』平凡社(1981年))
*仙叟宗室…江戸時代前期の茶人。1622(元和8)年~1697(元禄10)

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△胡麻竹の花入れ(小堀遠州次男・権十郎蓬雪(ごんじゅうろうほうせつ)*作)(出典:『太陽コレクション 茶の湯歳時記・秋』平凡社(1981年))
*小堀権十郎蓬雪… 1625-1694 江戸時代前期の武士茶人。 1625(寛永2)年~1694(元禄7)年

竹そのものの寿命は20年ほどらしいですが、江戸時代前期の胡麻竹の茶杓や花入れが、当時とあまり風情を変えずに現存しているのはすごいですね。

楽器などもそうですが、木から作られた道具類の寿命の長さには感心するばかりです。

③昭和の「大好き」を集めた日傘

今日ご紹介した日傘は母から譲られた昭和レトロなものですが、<更紗><象牙><胡麻竹>という当時の日本人の大好きなものが集約されたものだったのだと思います。

機能的には心もとない日傘ですが、着物のアイテムとして今後も大切に使うつもりです。(効果は不明ですが時々傘にUVカットスプレーをしています

 

 

 

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