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桃太郎の木目込(きめこみ)人形

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今日は味わい深いきものを着た、端午の節句の人形たちをご紹介します。

 

1.木目込み人形とは

桐糊(桐の粉に糊を混ぜたもの)を固めて人形をつくり、着物の皺や模様の形に筋彫りをしたあと、そこに布地をヘラで入れ込んで(これを木目込む・決め込む という)着せ付けていくのが特徴です。

 

 

2.桃太郎と家来たち

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鬼退治に出かける桃太郎と、お供の犬.猿.雉はお面を被った子供たちです。

 

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タイトルは『桃太郎 陣立ち』

家来が動物でなく普段着姿の子供たちであるところが可愛いですね。息子の初節句に、両親から贈られたものです。知り合いの人形師さんに作って頂きました。

 

作者紹介

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人形作家 野田芳正氏は明治45年生まれ。昭和2年に江戸人形師岡本玉水に15歳で弟子入りしました。日展作家として皇室納品も手掛け、日本人形美術院展や現代工芸展などで入選を重ねました。

母が製作をお願いした時、桃太郎の顔に関して「どんな顔が良いですか? 好きなお相撲さんを教えて下さい」と野田氏に聞かれたそうです。夫と私は、当時人気だった関脇・逆鉾関が人形になったら可愛いのでは? と思い、希望を伝えました。

 

 

3.人形をよく見てみる

①桃太郎

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日本人形のわりにははっきりした顔立ちです。
当時は逆鉾関(下の写真)に似ていると思いました。

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引用元:http://www.suruga-ya.jp

 

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細かい柄の衣裳を着ています。

 

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鬼ヶ島の方向を軍扇で差して、「いざ出陣!」と言っているのでしょう。

 

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陣羽織の遠山文様*は気品ある柄ですが、遠い山々の向こうに鬼ヶ島を想像することも出来ます。

*遠山文様:遠くに見える山々の連なりあう様子を文様にしたもの

 

②「猿」の子供

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桃太郎の脇にしたがう猿。すっきりと穏やかな顔立ちです。冷静さも感じられます。

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きものはちりめんの生地に花と七宝(しっぽう)文様*でしょうか。おとなしく、可愛らしい柄です。

*七宝文様:同じ大きさの円を4分の1ずつ重ねてつないだ文様

 

③「雉」の子供

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下がった眉にちょっとつり上がった目が印象的。

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鳥の翼のように繊細で軽やかさのある柄が、白いちりめん地に映えます。これは業平菱*の文様と思われます。キジは日本の国鳥なので、このような雅やかな柄を着せたのかもしれませんね。市松文様の半衿も素敵です。

*業平菱:三重襷(みえだすき)という菱文様の中に四つ菱をいれたもの。業平格子ともいいます。王朝貴族の直衣(のうし)にこの模様が用いられたところから、在原業平の名前が付けられたということです。

 

④「犬」の子供

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この子は顔立ちがちょっと大人っぽいですね。私は、作者の野田氏自身だと思っています。直接本人に確かめなかったのですが、以前から野田氏と何度もお会いしていた両親と私は、この人形の顔を見た時、すぐにそう思いました。

 

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野田氏は手作りの「日本一」の旗を分身に持たせ、自分が先陣を切るような気分でこの人形たちと向き合っていたのだと思います。この年(1987年)野田氏は75歳でしたが、とても若くてお元気でした。

人形はちりめん地に鮫(さめ)文様*の粋なきものを着ています。

*鮫文様:江戸小紋の代表的文様。鮫の肌のように見えるためこう呼ばれています。

 

4.28年前の桃太郎

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完成した人形を自ら届けて下さった野田氏。後ろ姿は母です。

 

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1987年5月2日、初孫を抱いた母と私。
20代の私は大柄の十日町紬を着ています。

野田氏はその後も数々の人形を製作し、2001年に89歳で亡くなりました。野田芳正氏は亡くなっても、桃太郎と家来たちの木目込人形は、毎年変わることなく家族を癒し、励ましてくれています。

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