先日、雅楽奏者とピアニストが共演するコンサートに行きました。
ステージを想像し、季節に合わせた着物と帯を準備する楽しみも味わいました。
1.雅楽とピアノの出会い
①CD『わくらば』
今回の公演は、雅楽奏者の長谷川景光氏の10枚目のアルバム『わくらば』のリリースのコンサートです。
「わくらば」とは、邂逅(かいこう)=偶然の出会い という意味だそうです。
平安朝雅楽の演奏とピアノ演奏がコラボする珍しい内容で、ピアノ譜も長谷川氏が作曲・編曲しています。
②出演者
<雅楽>龍笛…長谷川景光(はせがわかげみつ) 楽琵琶…佐野龍子(さのりゅうこ)
<ピアノ>遠藤征志(えんどうせいじ)
△ 左から佐野龍子氏・長谷川景光氏・遠藤征志氏(コンサートのチラシより)
長谷川氏と遠藤氏はコンサートのチラシ配りを通じて偶然出会い、互いの音楽性に共感したことでアルバム制作とコンサートの開催に至ったとのことでした。
③コンセプト
アルバム『わくらば』のコンセプトは、~平安の調べは美しく、そして悲しく~です。
長谷川氏と佐野氏は、平安時代の雅楽の古楽譜を改作せずに、記された奏法に従って演奏しているそうです。
平安朝雅楽の美しく悲しげな調べを現代日本人に伝えたい、ということなのでしょう。
古い時代の横笛は音を揺らすビブラート奏法だったとのことで、長谷川氏はコンサートでもビブラートをかけて演奏していました。
2.コンサート当日
①星陵会館ホール
コンサート会場は東京都千代田区永田町にある星陵会館の中にありました。
星陵会館は、旧制東京府立第一中学校(現・都立日比谷高校)の創立70周年を記念して設立された財団法人によって、1982年に建設されたものだそうです。
近くには日比谷高校や参議院議員会館があり、都心ながら緑に囲まれた閑静な場所にあります。
都立日比谷高校の校門前の八重桜が綺麗でした。
②内容<曲目>
第一部
- 青海波(せいがいは)
- 西王楽(さいおうらく)
- 小娘子(ころうじ)
- 竹林楽(ちくりんらく)
- 抜頭(ばとう)
- 想夫恋(そうふれん)
以上6曲は、はじめにピアノによる音取(ねとり・曲に先立つ短い前奏)のあと、龍笛、楽琵琶、ピアノの三重奏で演奏されました。
第二部
- 源氏物語54帖の響Vol.1より
遠藤氏のピアノソロ - 長慶子(ちょうけいし・ちょうげし)
龍笛、楽琵琶二重奏
③感想
- <偶然の出会い>から生まれたという雅楽とピアノのコラボレーションですが、三重奏の部分があまりにも自然で、まるで平安時代からこのように演奏されていたかのように感じました。
ピアノがパープの音色に似ていて、楽琵琶と共に龍笛の旋律を支えていました。 - 各曲の終わりはピアノがソロを受け持ち、雅楽の旋律をなぞりながら曲を深め、美しさと悲しさを際立たせていました。
- 長谷川氏による曲の解説が楽しく興味深いものでした。
- 最後の「長慶子」は源博雅(みなもとのひろまさ)作曲といわれる退出の曲。
この曲に見送られながら観客は会場を出るという演出で、気分が良かったです。
3.当日のきもの
①洋風花更紗の小紋
黒地に西洋風の花更紗の小紋です
可愛い花と彩色が気に入っています。洋楽のコンサートに着用したくなる着物です。
②鳥兜柄の帯
塩瀬羽二重に舞楽の鳥兜(とりかぶと)が描かれたもので、能「富士太鼓」の作り物(大道具)と装束を描いた帯です。
帯については、以下の記事で紹介しています。
この帯のようなはっきりした絵柄の場合、実際の能「富士太鼓」上演の時には着用を避けたくなります。
また、舞楽鑑賞の時も少し気が引けてしまいそうです。けれども、今回のようなシンプルな演奏会では、安心して装いを楽しむことができました。
③端午の節句を控えて
この帯の着用理由はもう一つありました。
4月下旬のコンサートでしたので、5月の端午の節句をイメージできるのではないかと思ったからです。
奈良の春日大社、鎌倉の鶴岡八幡宮、広島の厳島神社など、多くの神社では五節句の一つである端午の節句に雅楽が奉納されています。
もちろん雅楽は端午の節句に限ったものではありませんが、知人からは「今の季節らしい柄ね!」と言われました。
襲装束に鳥甲を着用しています。(『美しき雅楽装束の世界』 遠藤徹著 青木信二撮影 淡交社2017年より)
CD『わくらば』は、雅楽の演奏を身近に感じることができ、聞いていると気持ちが落ち着くので、ヒーリングのアルバムとしても私のお気に入りになっています。