1980年前後から卒業式に袴を着る女子大生が増え始め、最近は卒業式といえば袴、というくらいに定着しています。
今日は袴を取り上げます。
1.女袴
卒業式に用いる袴は「女袴」と呼ばれています。
①女袴(おんなばかま)
「行灯袴(あんどんばかま)ともいう。 明治時代から昭和初期には女学生の制服として多く着用された。現在でも卒業式における女性教員、女子大生の定番の服装である。現在着用されるものの多くは、長い巻きスカートのようなタイプで腰板がない。一部神社の巫女や現代の女性皇族、雅楽舞踊の演者などには、男子同様の足を通す部分が二つに分かれたタイプの着用も見られる。男袴とは前後の襞の数が違う」(wikipediaより抜粋)
②明治時代の女性の袴
明治の初めに学問の道が開けた女性ですが、その頃は男性用の袴しかなかったために、女子学生が身に着けたのは男物の縞の袴だったそうです。
その姿は勇ましく、かなり違和感があったので世間から強い批判をうけました。そして明治15~6年頃には女子学生の袴は禁止されてしまいました。
その後、華族女学校(明治18年創立・学習院女子部の前身)で、宮中の袴をもとに考案された女袴が、制服として使用されるようになりました。今の女子学生用袴とほぼ同じ形で、海老茶色だったそうです。
明治30年以降は女学生の間で急速に広まりました。
△女袴の着用例(1943年・照宮成子内親王殿下)wikipediaより
③現代
現代の袴の流行は1970年代後半からはじまったといわれています。
私は卒業式に振袖を着ましたが、袴姿の友人は女性らしさの中にもりりしさがあり印象的でした。
2.女袴以外
娘の大学卒業を前に、袴を着付ける練習を兼ねて、お正月に我が家にある袴を娘に着せてみました。ただし女学生用ではない馬乗り袴*です。
*馬乗り袴…中がズボンのように二股に分かれている袴。主に男性用。
①紫根染(南部しぼり)のきものに仕舞用袴
*仕舞袴(しまい-ば(は)かま)…主として能楽において用いられる特殊な形状の袴。仕舞、舞囃子などを舞うときに用いられることが多いためにこの名がある。(Wikipediaより抜粋)
以前ご紹介した(2017年2月19日の記事)紅花染の袴です。
腰板の下にヘラが付いています。帯の上から差し込んで着用します。
後ろを見ると、腰板や袴のひだなどが女袴と違うのがわかります。
本来は十文字に結ぶ前紐を蝶結びにしました。
②茜染(南部しぼり)のきものに武道用袴
*武道袴…馬乗り袴のうち、武道用に各部位に工夫がなされたもの(襞の内側からステッチが入り皺が取れにくいもの、受け身が取りやすいよう腰板がゴム製になっているものなど)を武道袴と呼ぶことがあるが、明確な定義はない(Wikipediaより抜粋)
これは合気道の袴です。
基本的には剣道・弓道・合気道で着用する袴は同じだそうです。袴の真ん中で両足が分かれている(馬乗り袴)で男女差はありません。素材はテトロン、ポリエステルなどの化学繊維のものが多いようです。
男女共同じ形で、ウエストあたりで紐を締めて着ます。(出典:イサミ)
普段の着方と違い、馬乗りぎりぎりまで上げて着せましたが少し丈が短いです。
このように袴と言ってもいろいろな形がありますが、やはり卒業式には女袴がふさわしいようです。
3.卒業式のレンタル袴
大学の卒業式で娘がレンタルの袴を着用しました。その流れと当日の装いをご紹介します。
①予約会
9月にデパートの貸衣装サロンで予約会がありました。「卒業袴早期貸衣装ご予約会」というものです。
「予約会」に参加するための「予約」は、1週間前から電話による受付でした。貸衣装の試着は、一人2時間までという制限付きです。
半年前からの貸衣装予約会…このことからも卒業式の袴が如何に定着しているのかがわかります。
②何をレンタルするか
<きもの>
すべてセットでレンタルする方法もありますが、娘が着たいというきものは決まっていました。元は私の振袖で、結婚後に袖を短くして着ていたものです。
袖丈は一尺六寸五分で一般的な小振袖(二尺)よりは短いものですが、ブーツと合わせて軽快に着たいようです。
振袖だったものを……
袖を詰めて着ていました。
<ブーツ>
日常でも履ければ購入しようかと思いましたが、袴スタイルにはおとなしい編み上げのショートブーツが定番のようなので、レンタルすることにしました。
<袴下帯>
手持ちの細帯を使用することにしました。
左が半幅帯。右が細帯。
幅11cmの紬の帯です。
つまりレンタルするのは袴とブーツの2点です。
予約会にきものを持っていくのは大変なので、<きものの残り布>・<袴下帯>・<ハンドバッグの写真>を持参して色などを合わせることにしました。
会場には振袖を持参している母娘や、綺麗なレンタルきものと袴を選んで試着する母娘が来ていましたが、予約制なので混雑はしていませんでした。
レンタルのきものは袴用に丈が短く仕立てられているようでした。
袴の丈は、卒業式に草履かブーツのどちらを着用するかによって決まります。ブーツの場合は丈を少し短めに着るからです。
「ご自分の振袖(中振袖や本振袖)を着る方には、袖が袴より長いとおかしいので、草履をおすすめしています。」と担当の人が言っていました。
試着は短時間で終わり、えんじ色に桜の刺繍があしらわれた袴と、黒いブーツを予約しました。レンタル料は、袴20,000円、ブーツ7,000円でした。(税別)
卒業式前日に取りに行き、式の翌日に返却することになりました。
③支度に必要なもの
予約した時にもらったパンフレットには卒業袴に必要な物が写真付きで記されていました。
卒業袴の支度に必要な物は以下の通り。
- きもの
- 長襦袢(半衿付き)
- 袴
- 半巾帯
- 伊達衿
- 肌襦袢
- 裾よけ
- 腰紐4本
- 伊達締め2本
- 帯板(細)
- コーリンベルト
- 衿芯
- タオル2~3枚
- ブーツまたは草履
- 靴下(タイツ)または足袋
- バッグまたは巾着
- 髪飾り
足袋や肌襦袢などの小物はセットで販売されており、髪飾りや巾着も用意されています。
4.卒業式を迎えて
①前日
予約しておいた袴とブーツを取りに行きました。
貸衣装はこのような不織布のバッグにまとめられていました。
袴とブーツの2点です。
遠目では無地ですが細い縞です。生地はポリエステル100%。
裾と……
後ろ紐部分に桜の刺繍があります。
編み上げブーツ
新品ではありませんが、靴底やかかとはきれいです。
係の方の話では、袴は毎回クリーニングやほつれ直し、アイロンなどのメンテナンスをしているそうで、卒業式が集中する時期は大変忙しいそうです。
また、今年からは要望の多かった小学生用の袴のレンタルを始めたとのことでした。来年以降もまだまだ卒業袴の流行は続きそうです。
②着る
<下着>
・薄手の七分袖インナー
東京の天気は雨で最高気温は8℃の予報。冬の支度が必要でした。
・裾が短いきものスリップ(装道 ワンピース型 美容ユニペッチ)
以前取り上げましたが(2017年1月29日の記事参照)きものスリップとしては少し短すぎるデザインのもので、袴にはぴったりでした。
・「らくらく着物補正下着」(2015年2月28日の記事参照)
ほとんどが袴に隠れてしまいますが、補正下着は外見もさることながら、きものを着ていて楽に過ごせる点が最大のメリットなので、いつも通りに補正しました。
・ベージュのタイツ
黒のタイツは少し抵抗がありベージュにしました。
<長襦袢>
・裾上げ
袴用に短く着るためには長襦袢もおはしょりをする必要があります。けれども紐は少ない方が着ていて楽だと思い、裾上げをしてしまいました。
<きもの>
足さばきを良くするために、裾すぼまりにならないように着付けました。
プロはおはしょりをしないで、きものの裾を内側にたくさん折り上げて着せるようですが、難しそうなので昔風のやり方で着せました。
<帯>
一文字結びをします。文庫結びより小さくまっすぐな結び方です。
<袴>
柔らかくて馬乗りもないので、着せやすかったです。
袴の前紐を後ろで帯の羽根に十文字に掛けて前に回します。
前に回した紐は交差させて再び後ろで結びます。(下の蝶結びの部分)
ここをしっかり着付けるのがポイントかもしれません。
③出来上がり
ブーツを履くと全体が締まります。
前部分。帯は袴から2cmほど出ていますが、同じ色であまりわかりません。女袴の可愛いらしさは、このリボン結びにあるようです。
後ろはこのように。
横から。
私もまだ使用している昔のビーズのバッグです。
娘のきものの地色が渋いので、私も紫系のひとつ紋付にしました。
(二人並ぶと地味ですね……)
あいにくの雨と寒さ。卒業式の会場で荷物にならないように二部式雨ゴートの上だけと、小さいファーマフラーを着用。
こんな日はポリの袴とブーツで良かった、とつくづく思いました。
④感想
最近は時々きものを着るようになった娘ですが、卒業式の装いは格別だったようです。晴れ着を身にまとっていても、袴とブーツが動きやすく楽だったことが気に入った理由だそうです。
女子のほとんどが袴とブーツスタイルの中、振袖の学生はかえって新鮮に見えますね。
活動的ながら女らしさや可愛らしさを表現できる女学生袴は、今や小学生にとっても憧れのスタイル。私も昔の卒業式当日、大学に振袖を来ていくことに少し抵抗を感じていたことを思い出しました。袴を着れば良かったのでしょう。
学業を終え、男性たちと肩を並べて社会に出てゆく現代の女性たち。そんな女性にぴったりの装いがきものと袴のスタイルなのかもしれません。