前回は縞御召の羽織を取り上げました。今日は縞御召のきものをご紹介します。
1.縞御召
縞御召は御召の始まりといわれ、昔の御召は縞だけだったそうです。
徳川11代将軍の家斉が好んで着たもので、徳川家の「御召料」(着物のこと)からその名がついたと言われています。
御召は御召縮緬(おめしちりめん)とも言います。糸の状態で精錬し、先染を行った後で織られるところがふつうの縮緬と違う点です。細かいシボと独特のしゃり感は、縮緬生地とは少し違い、落ち着いた光沢もあります。
縞の太さや色によって印象がずいぶん変わりますが、知り合いの呉服屋さんの話では、昔は地味な色で細い縞の御召は格が高く、黒い紋付きの羽織と共に略礼装として着用されたようです。
2.遺された縞御召のきもの
我が家にある古い縞御召のきものをよく見てみます。
①全体
戦前の着物で、持ち主は明治25年生まれでした。
黒と茶色の細い縞です。
②裏地など
袖口はベージュですっきりした色合わせです。
胴裏には昔のきものならではの紅絹(もみ)*が使われています。
*紅絹…絹織物の一種。真赤に無地染めにした薄地の平絹のことをいう。 ウコンで下染めしたものをベニバナで上染めして仕上げる。花をもんで染めることから「もみ」と名がついた。 紅絹は、戦前まで女性の和服長着の胴裏(どううら)に使われていた。(Wikipedia.orgより)
裾回しには紫の縮緬。現在のような「精華」や「パレス」というような裏地は無かったのです。
③昔の写真
紋付き黒羽織と共に着ています。(昭和20年代)
孫の七五三に付き添った写真です。
この縞御召のきものは大切に着ていた為でしょうか、傷みはほとんどなく、十分に着られる状態です。
3.着てみる
縞御召のきものを初めて着てみました。
長くしまわれていた為に、後ろのたたみ皺はアイロンをあててもなかなか取れませんでした。
桃の節句が近い2月下旬の着用だったので、塩瀬羽二重・姉様人形の帯を締めたくなりました。
姉様人形は昔のままごと遊びに使われたものなので季節はなく、姉様=雛人形ではありませんが、春先に見るとそんなイメージが湧きます。
不思議なことに、黒×茶の縞御召にはどんな色の帯も合いそうです。取り合わせが難しかったこのグリーン系の帯でも大丈夫でした。季節によっていろいろな柄の帯を楽しめる便利なきものなのかもしれません。
4.「すみだ北斎美術館」へ
縞御召のきものを着て「すみだ北斎美術館」へ行きました。
①「すみだ北斎美術館」とは
東京都墨田区亀沢に2016年(平成28年)11月22日に開館した公立美術館です。
江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎が本所界隈(現在の墨田区の一角)で生涯を送ったことなどから当地に設けられました。
葛飾北斎を単独テーマとした世界初の常設美術館です。
企画展(開館記念展Ⅱ)は「ピーター・モースと楢崎宗重 二大コレクション」です。(2017年2月4日~4月2日)
都営地下鉄大江戸線「両国駅」から徒歩5分のところにあります。
美術館手前に立てられた「葛飾北斎生誕地」の案内板(高札)
美術館外観
②建物内部と常設展示室について
企画展示室は3階と4階に、常設展示室は4階にあります。
まず、地下1階に下りました。
ここには返金式のロッカーがあるので、コートなどを預けてから見学できます。
まず、常設展示室を見学しました。
常設展示室では、北斎の生涯における各期の代表作を実物大・高精細なレプリカによって見ることができます。
また、常設展示室内部では一部を除き写真撮影が許可されています。(すみだ北斎美術館所有でなく、他から借りて展示されているものは撮影禁止です)
③『須佐之男命厄神退治之図』
常設展示室前に展示されているのは、白黒写真を基に推定復元した、『須佐之男命厄神退治之図』(スサノオノミコトやくじんたいじのず)です。
もとは北斎が86歳の頃に描いた幻の巨大絵で幅3メートルにもなる超大作です。
須佐之男命(すさのおのみこと)が十数名の疫病神を退治する様子が描かれています。作品は向島の牛嶋神社に奉納されましたが、関東大震災の時に焼失してしまいました。
幸い、明治時代に撮影されたモノクロ写真が残っていたため、すみだ北斎美術館の開館を機に復元しようということになったそうです。
最新技術を駆使して写真の明暗差を解析し、描かれた当時の色を導き出したり、絵画修復の専門家が北斎の筆使いを分析するなどして、多くの技術者の努力の末復元に成功したものです。(その様子は、昨年11月、NHK総合「ロスト北斎 The Lost Hokusai『幻の巨大絵に挑む男たち』」で放送されました)
当時の物でなくても、現代技術の結晶といえるこの絵を見ることができ感激でした。
世界的に有名な『冨嶽三十六景』の大波が入り口を飾ります。
この展示室では、本物の展示を見る前に楽しみながら北斎についての理解を深めることができるので、初めて「すみだ北斎美術館」を訪れる方は、こちらを見てから企画展をご覧になることをおすすめします。
5.常設展示室の錦絵(レプリカ)
△『釣竿を持つ子と亀を持つ子』天明年間(1781~89)頃
北斎20代の頃の錦絵です。
△『あづま与五郎 残雪』/『伊達与作せきの小万 夕照』享和年間(1801~04)頃
北斎40代の頃の錦絵です。(ピーター・モースコレクション)
△『賀奈川沖本杢之図(かながわおきほんもくのず)』文化初年(1804~07)頃
北斎40代の頃の錦絵です。
△『冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏(なみうら)』天保2年(1831)頃
北斎70代の頃の錦絵です。
少し長くなりましたので、『冨嶽三十六景』の他の作品や、興味深い展示については、又次回にご紹介いたします。