訪問着と付け下げをすぐに見分けるのは難しいといわれています。
今日は、付け下げでも柄によっては紋を付けて訪問着風な装いができるのでは? ――という提案です。
1.訪問着と付け下げ
①訪問着とは
留袖につぐ格で略礼装(準礼装)のきものです。
胸元から後ろの肩、袖から裾にかけて縫い目に関係なく豪華な模様がつながっています。これを絵羽模様といいます。
絵羽模様(えばもよう)
「白生地の状態で着物の形に仮縫い」→「着物全体に柄づけ」→「仮縫いをほどく」→「染色その他の加工」→「仕立て」という工程でつくられているので、縫い目で模様が途切れず、まるで一枚の絵のようなきものに仕上がっています。
訪問着は華やかな古典柄で刺繍や絞り、金箔などが施され、八掛(裾回し)が表生地と同じ共八掛が付けられています。
△訪問着(写真:網野鉦一(1996)『着物の知識と着つけ』グラフ社より)
②付け下げとは
訪問着よりも格下で、小紋よりも格が高いきものです。
着物の模様が、肩山から振り分けて全部上向きになるように配置されて染められたきものです。反物の状態で柄付けと加工が行われるので縫い目で模様がつながらないものが一般的です。
付下げよりカジュアルな小紋は、柄が上下様々になっています。
△付下げ(写真:網野鉦一(1996)『着物の知識と着つけ』グラフ社より)
③わかりにくい点
ところが付下げの中には以下のような、訪問着にも見えるものがあります。
- 模様が縫い目でつながっている
- 衿から胸にかけても模様がつながっている
- 共八掛になっている
これらは訪問着の特徴でもあるので、ぱっと見ただけでは区別が付きません。
一般的には豪華な模様や刺繍などが着物全体に流れるようについているものは訪問着に間違いないですが、おとなしい感じ、渋い柄付けのきものでは判別しにくいようです。
印象が華やかで豪華に感じても付下げだったり、渋くて控えめな印象でも、凝った意匠で絵羽付けされた高級な訪問着という場合もあります。
前掲書『着物の知識と着つけ』の中で、訪問着と華やかな付下げの着用写真がありました。
これは訪問着。華やかで流れるような模様です。
これは「付下げ」と紹介されており、「訪問着ほどあらたまらない、略式の礼装。昭和27年に作られた。」
と説明がありました。
もともと付下げは戦時中、訪問着ほどは華美にならない着物として工夫されたのが始まりと聞いたことがあります。
ですから、訪問着と付下げをきっちり判別するのは難しいようです。
その曖昧さが着物の面白さなのかもしれません。
2.付下げに一つ紋を入れて
①付下げの反物
私が以前から持っていた反物ですが、仕立てるタイミングを逸して時が過ぎてしまいました。
生地は丹後ちりめんです。
このままではもったいないので、地の色と洋風な花柄を気に入ってくれた嫁に着てもらうことにしました。
ちょっとしたお出かけ用の付下げですが、嫁は着物を着る機会があまりないようなので、少し格上げしてよそ行き着物にしてみました。
一つ紋をつけて……
出来上がりました。
左肩の花がコサージュのようです。
花の色に合わせてピンク系の金彩入りぼかし模様の伊達衿を付けました。
伊達衿を付けることで衿元に重厚感が出て格が上がるような気がします。
②付下げのほうが良いことも
現代では、正式な場所や装いに決まりのあるお茶会などは別として、華やかな場面で自由に着物を楽しめるようになりました。
披露宴やパーティーなどに着物で出席する人が減り、格式にこだわる年齢層が減ってきていることもあるのでしょうか……。
また、着物というだけでゴージャスに見えるので、訪問着にこだわる必要はないように思います。
明るい雰囲気の付下げならば、友人の披露宴や子供のお祝いごとにも着用できます。
仰々しくない着物の方が披露宴の二次会にも向きますし、子供のお祝いでは主役を引き立てて控えめな明るさを演出できるでしょう。
付下げのほうが着用シーンが多く、帯によっていろいろに楽しめそうです。
③お宮参りに
仕立て上がったきものは、嫁が長女のお宮参りに着ることになりました。
お宮参りは5月下旬。新緑の季節らしい付下げになりました。
黄緑色の付下げに映えそうなピンク色の産着をレンタルで選びました。
神社でご祈祷を受けるときは父方祖母が抱きますが、記念写真はもちろんママも抱っこして撮りました。
豪華な模様や刺繍はないですが、今後も祝いごとやパーティーなどに活用できそうな一着になりました。