今日は小袋帯(こぶくろおび)を取り上げます。
小袋帯は袋状に仕立てられている半幅帯で、袷の着物に締めることができ、羽織を着ればふつうの帯と同じに見えます。
明るい色の紅花紬と、更紗模様の羽織に合わせてみました。
1.取っ手が外された箪笥(たんす)の秘密
まずは小袋帯が入っていた箪笥のお話から……
①頑丈な和箪笥
小袋帯は戦前から使われていたと思われる古い箪笥の中にありました。
その箪笥は夫の祖母が使用していたもので納戸に置かれていましたが、不思議なことに金属製の取っ手がすべて紐に付け替えられていました。
かわりに紐が付いています。
鍵部分の金具もなくなっています。
箪笥の取っ手がそんなに簡単に壊れるはずはないし、しかも全部がなくなっているのはなぜなのでしょうか……
②金属類回収令
私は「金属の供出」という言葉を思い出しました。
子供のころ「戦時中は家で使う金属製品や指輪を供出させられた」ということを親が話していたからです。
「きょうしゅつ」という聞き慣れない言葉と共に、大切な指輪を差し出した人を可哀想に思ったことが記憶に残っています。
調べてみると、実際は「金属類回収令(きんぞくるいかいしゅうれい)」というものでした。
金属類回収令(きんぞくるいかいしゅうれい、昭和18年8月12日勅令第667号)は日中戦争から太平洋戦争にかけて戦局の激化と物資(武器生産に必要な金属資源)の不足を補うため、官民所有の金属類回収を行う目的で制定された日本の勅令。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%B1%9E%E9%A1%9E%E5%9B%9E%E5%8F%8E%E4%BB%A4
お寺の鐘や銅像、家庭では鍋や釜、火鉢、箪笥の取っ手や窓の格子、指輪やネクタイピン、ブリキのおもちゃに至るまで回収されたとのことです。
この回収令によって渋谷の初代ハチ公像も失われました。
△回収されるハチ公像(『戦時中の日本』彩図社より)
△昭和17年小学校校庭での「金属回収」(wikipedia.orgより引用)
この箪笥の取っ手も供出したのだと思いました。
昔の女性にとって、箪笥は今よりもずっと大切な財産であったと思います。
「少しでもお国の役に立てば」と、女性たちも必死に戦っていた当時が偲ばれます。
③ 小袋帯とは
小袋帯は半幅帯の種類で、袋帯のように袋状になっている帯のことです。両面が使え、色や柄が表と裏で違う仕様の帯も多いです。
夏用の半幅帯より厚みがあるので袷の着物にも締められます。着物が日常着だった時代では必須アイテムだったと思われます。
このように表と裏がまったく違う雰囲気の小袋帯(半幅帯)は着用範囲が広くて便利です。
2.格子縞の小袋帯を着用する
①リメイク品?
箪笥に保管されていた格子縞の小袋帯(半幅帯)です。
比較的ツヤのある柔らかい生地です。
所々ハギがあるので、着物をほどいて作られたリメイク帯かもしれません。
②紅花紬に
「光彩」というタイトルが付けられた紅花紬に締めました。明るい色の着物に合わせると帯が引き立ちます。
帯揚げはきものの残り布を使っています。
「リボン結びからの角出し風」に結びました。
(長さが足りないので帯は1回まわしただけです)
リボン結びはこちらで紹介しています。
③羽織を合わせる
花更紗模様の羽織を着てみました。秋冬に締める半幅帯は背中が寂しい感じがするので、羽織を着ると安心します。
半幅帯なので、お太鼓に比べると背中の膨らみが下になり、少し貧弱になってしまいます。
この帯は今ではカジュアル用ですが、昔は黒羽織の下に締めれば少しあらたまった場所にも出掛けられるという重宝なものだったと思います。
今日は半幅帯と古い箪笥を取り上げました。
平和の時代に着物を楽しむことができる幸せに、あらためて感謝したいと思いました。