お勉強

昭和の黒留袖2 ー受け継がれる黒留袖と袖に模様のある黒留袖ー

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前回に引き続き昭和時代の黒留袖を取り上げます。

振袖から留袖に変身させたり、「替え袖」を作ったりして長く着る工夫がされていました。

1.黒地の紋付き振袖から黒留袖へ

①戦前の引き振袖

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前回もご紹介しましたが、義母が結婚式で着用した黒紋付きの引き振袖です。

昭和16年12月の日本は、戦時下とはいえ物資はまだ不足しておらず、着物を誂えるゆとりがあったようです。

この引き振袖は婚礼後、長い袂(たもと)を切り、留袖になりました。

その留袖を本人が着用した写真は残っておらず、戦況の悪化で着る機会がなかったと思われます。

②留袖として親子三代で

幸いにも、この着物は戦時下を生き延びることが出来ました。

戦後の着用状況は不明ですが、昭和の終わり頃と平成の写真があります。

 

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△ 昭和61(1986)年、義母の娘が着用

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△ 平成15(2003)年、義母の孫(娘の長女)が着用

このように親子三代で着用することが出来ました。

孫が着用したカラー写真を見ると、振袖がいかに華やかなものだったかが分かります。

もしも現在5歳のひ孫女児が着ることになれば、四代にわたる着物になります。

③婚礼は戦後すぐでも

戦後は繊維の統制が続いていたようなので、すぐに着物を誂えることができたのかはわかりませんが、戦後すぐでも婚礼はあったようです。

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△終戦の半年後、昭和21年3月の伯母の婚礼写真

黒引き振袖ではなく、白打掛のようです。

戦後半年にもかかわらず、皆きちんと正装して婚礼にのぞんでいたことが分かります。

 

2.もう一つの黒留袖

①昭和20年代の黒留袖

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これは知人のお母様(故人)の留袖です。

昭和一桁生まれの方なので、戦後の婚礼衣装の袖を詰めたものではないかと思います。

知人が処分するというので譲っていただきました。

たとえ誰も着られなくても、お母様とその御両親が留袖に込めた当時の思いを想像すると、残しておきたい気持ちが強くなります。

②広げてみる

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きものを広げて掛けてみました。

 

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長かったはずの袂(たもと)は約56cm(1尺4寸7分)になっていました。

 

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△裾模様

刺繍はありませんが、紅白の鶴が大胆に描かれたおめでたい文様です。

 

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裏は鮮やかな紅絹(もみ)*で、裾や袖口の ふき(袘)には綿が少し入っています。

*紅絹(もみ)…真赤な薄地の平絹で、昔の着物の裏地によく使われたものです。紅花をもんで染めるので「もみ」という名がついたようです。

 

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△紅絹

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△裾裏の模様

裏の模様は左右対称になっています。

この留袖を知人のお母様がどのくらい着用なさったのかはわかりませんが、大切に保管されていたので退色以外の傷みはありませんでした。

 

3.昭和30年代後半の変わり黒留袖

最後に私が母から譲られた黒留袖を取り上げます。

①袖に模様

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はじめから留袖として作られたきものですが、珍しいことに左袖(前と後ろ共に)に模様があります。

黒留袖は本来、裾模様だけで上半身や袖には模様がありません。ところが昭和30~40年代にこのような黒留袖が存在したようです。

おそらく披露宴などで着席すると裾が隠れて紋だけの無地の着物になってしまい、つまらないという発想から生まれたのだと思います。

 

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そしてこの黒留袖には無地の替え袖があります。付け替えればふつうの黒留袖になるのです。

②着用した写真

母が

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親戚の結婚式で母が着用しています。(昭和30年代末)
幼い私も一緒です。

 

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黒留袖の母の隣が2歳の私です。(旧帝国ホテル宴会場にて)

 

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23年後、私の結婚式で母が同じ黒留袖を着ています。(昭和60年代)

このときは50代なので、袖を無地に付け替えていました。

私が

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今度は私が再び模様の袖に付け替えて着用しました。(平成15年)

40歳前後で2回着用しました。

③袖はそのままに

母からこの黒留袖を譲り受けたとき、「50歳過ぎたら袖を無地に替えなさいね」と言われました。ですから、そのときは「子供達の婚礼を迎える時が来たら袖を替えよう!」と決めていました。

ところが、いざ母親として式に参列することが決まると、「袖に模様があってもいいのでは?」と思い始めました。

昔のように親族が揃って黒留袖を着るわけではなく、「50代以降の裾模様は地味に……」というような決まり事もなくなった今では、珍しい黒留袖も話の種になるくらいで問題はないと考えたのです。(もちろんお直し代もかかりますし……)

そこで息子と娘の婚礼にはそのままの袖で参列しました。

 

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右側から見れば普通です。

 

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左側は華やかになります。

 

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後ろ姿でも模様が分かります。

 

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この黒留袖は松笠文様だと思われます。

松ぼっくりから放射状に矢羽のような松葉が伸びています。

今は古典柄が主流の黒留袖ですが、昭和30~40年代はこのように変わった模様が流行ったのかもしれません。

 

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△ 娘の婚礼で

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△ 私の振袖を色直しに着た娘と

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△ 息子の婚礼で

袖を替えずに帯と髪型だけ替えました。

2回とも自装したので、袖の模様に関しては誰にも気付かれないと思いましたが、娘のベテラン介添えさんが「お袖に柄があって珍しい!華やかでいいですね~」と、ほめてくれました。

 

* * *

2回にわたって、昭和時代の黒留袖を取り上げました。

もとは振袖を詰めて姿を変えた黒留袖ですが、昔も今も黒留袖には女性の思いがたくさん詰まっているように感じました。

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