今日はきものの基礎知識として、紬と絣について考えます。
1.紬と絣
①素朴な疑問
先日、きもの初心者さんから
「つむぎ」と「かすり」という言葉はよく聞くのですが、その違いがわかりません。
という質問を受けました。
確かに日本語としては現代でも馴染みがある言葉ですが、それがどのようなものかを説明できる人は意外に少ないかもしれません。
そもそも、きものに関する言葉は明確な定義がなく、目にしたり着用したりすることで自然と知り、受け継がれていくものだったので、はっきりと説明することは難しいと思います。
とくに若い人は現物を見たことや触った経験も少ないと思います。
今日は写真を見ながら考えていきたいと思います。
②決定的なこと
紬と絣は同列に並べて違いを説明できるものではないと思います。
なぜなら、
紬は「きものの生地」をあらわす言葉であり、
絣は「きものの柄」をあらわす言葉だからです。
説明はあとにして、写真で見てみましょう。
<紬>
これらは柄のない紬です。
これらは白い紬の生地に色や柄をほどこしたものです。
<絣>
これらは染めた糸を使って柄が織り出されています。
2.紬とは
紬糸(つむぎいと)で平織りにした絹織物のことです。
①紬糸とは
くず繭や製糸に適さない玉繭(たままゆ・1つの繭に2つのサナギが入ったもの)など、生糸(きいと)にできない下級の繭糸を真綿(まわた)*にして、手で紡いだものです。
②*真綿とは
下級繭を精練した後で、水中で不純物を取り除きながら広げて引き伸ばし、木枠に張りかけて乾燥させ、「わた」にしたものです。
その中で良質なものが紬糸の材料となります。
保温性と柔らかさから、以前は布団や防寒具などに詰めて使用されました。
各家庭に必ずあるものだったと思います。母は子供の頃、寒い日の通学には真綿を背中に背負って、とても暖かかったと話していました。
試しに繊維を引っ張ってみました。真綿は繊維が細く指先に引っかかりやすいので手袋をしています。
これは手芸用真綿ですが、実際につむぎ糸を作るときは、大きな真綿から糸を少しずつ引き出して指先でまとめながら紡いでいきます。
現代では、真綿をスピーカーに詰めて音質向上に使用されることもあるそうです。
③紬糸を染める
真綿から紡いだ糸は植物などで染められます。
△志村ふくみさんの紬糸(2016.11.27,東京南青山TOBICHIでの志村ふくみさんの展覧会で撮影)
志村さんは、藍・紫根・刈安・葛・よもぎ・すおう・茜・桜・梅・びわ・キハダ・玉ねぎ・栗・サルスベリなどの植物で糸を染めているそうです。
④紬の特徴
- 紡ぐことで繊維の間に空気が入るので、軽くてあたたかい生地になります。
- 糸を繋いだことによる結びコブができ、それが独特の味わいになります。
3.絣とは
柄を出すための絣糸(かすりいと)*によって作られた柄のことです。
また、絣が使われている織のきものを「絣」と呼ぶこともあります。産地の名をつけて「〇〇絣の着物」と言ったりします。
①*絣糸とは
文様を織るために、染まらない部分を作って(防染)染め分けられた糸のことです。
②防染の方法は
「くくる」・「板締(いたじ)め」・「織締(おりじ)め」 があります。
【くくる】
白く染め残す部分を糸で固くくくります。
△結城紬の絣くくり(木村孝監修(2002)『染め織りめぐり』JTBより)
【板締め】
凹凸のある板に糸をはさんで締め付けて液を流し込み、染まらない部分を作ります。
板締めによる染色は、山形県白鷹(しらたか)町で生産される「白鷹紬」が有名です。
【織締め】
締め機(しめばた)や織締め機械を用います。
たて糸に木綿を使い、絣用の絹のよこ糸をかたく織り込む「仮織(かりおり)」をしたあとで染めます。たて糸が防染の役割をします。
※ 本項は成田典子(2012)『テキスタイル用語辞典』テキスタイルツリーを参考にしました。
4.混同しやすい理由
紬と絣の大体の意味はお分かりいただけたと思います。
けれども、今ひとつすっきりしない人もいるのではないでしょうか?
前述のように、絣文様でできている織の着物そのものを「絣」とも呼ぶため、紬の着物でも、「〇〇絣」と言うことがあるからです。
たとえば、「結城紬」は「結城絣」とは言いませんが、「十日町紬」は「十日町絣」、「琉球紬」は「琉球絣」と言ったりします。
これらは同じものを指しているわけですから、紬=絣と思っても仕方がないのです。
もとの意味さえ分かっていれば、紬と絣の使い分けは、あまり気にしなくて良いのかもしれません。
きものに関する言葉は、このように曖昧なものが多いようです。
まぎらわしさが増してしまったかもしれませんが、次は、<絣文様でできている紬>をご紹介します。
長くなりましたので、続きは次回に。