今日は袷の着物の裏につける八掛(裾廻し)を取り上げます。
裏地というだけでなく、おしゃれのポイントにもなる八掛は、どのような使われ方をしているのでしょうか。
実際の写真を紹介しながら、八掛の選び方を考えてみます。
1.八掛とは?
①八掛(はっかけ)・裾廻し(すそまわし)
袷(あわせ)の着物の裾の裏につける布のことです。
前身頃、後身頃の裾裏に4枚、衽(おくみ)*の裏に2枚、衿先の裏に2枚、合計8枚掛けるので、八掛といいます。裾廻しともいいます。(私はこちらのほうが言い慣れています)
*衽…前身頃に縫い付けられた半幅(約15cm)の細長い部分。上は衿から、下は裾まで続いています。
八掛と同じ布は袖口にも付けられます。
②八掛は何のため?
八掛は表地が傷まないように保護する為と、裾さばきを良くする為に付けられます。
そして、もうひとつの目的はおしゃれのためです。
というのも、袖口は少し手を動かすだけで裏地がよく見え、衽の下の裾部分は歩くと必ず見えるものなので、八掛はただの裏地ではなく、人からよく見えるものでもあるのです。
③種類
留袖や訪問着の場合は、表の生地と同じ布の八掛を付けます。
それを共八掛と言いますが、訪問着の場合は共布でない生地を付けることもあります。
小紋や紬のきものには同系色や同系色のぼかしをつけたり、反対色を付けたり、模様の中の色から選んだりと好みで選ぶことができます。
昭和時代までは若い人の着物には赤系の派手な八掛がよく使われました。
八掛の生地は、柔らかものに付ける「精華パレス」、紬用の「駒撚り」の2種類があり、表の生地に合わせて使い分けますが、紬に精華パレスを使うこともあります。
精華パレス(シボが小さい縮緬)には、無地とぼかしがあります。色の薄い着物には、八掛と胴裏の合わせ目が透けて見えないようにぼかしが使われます。
④交換可能
八掛の楽しいところは、違う色を付けることで着物が生まれ変ったように思える点です。
表が少し派手になってきたと感じたら、地味な八掛に交換することで長く着られるようになることもあります。
八掛交換の例
若いときの大島紬が ……
↓
落ち着いた雰囲気になりました。
染めの紬ですが…
↓
飛び柄で地色の占める割合が多いため、八掛を地味にしただけで印象が変わりました。
目の醒めるような赤の八掛付きの小紋でしたが…
↓
この八掛の方が茶屋辻(ちゃやつじ)文様に合っているようです。
2.カジュアルな着物の八掛
普段は気にすることがありませんでしたが、今回は八掛に注目しながら以前撮影した私や娘の後ろ向きの写真をさがしてみました。
①紬のきものの八掛
赤の八掛
紬に真っ赤な八掛は昭和の定番でした。
茶系の八掛
こうしてみると、紬には茶系の八掛が無難なようです。
その他の色
胴裏は紅絹(もみ)が使われています。
振り(袖裏)の赤がポイントになっています。
②カジュアルな柔らか物の八掛
朱の八掛
昭和時代、若い人の八掛はだいたい朱色か赤でした。
(私が10代の頃の着物を娘が20代で着用)
数年前の正月に、これが最後と思って朱の八掛のまま着用した縮緬の小紋です。
娘時代の大きな模様の着物は八掛を替えることで40歳くらいまでは着られますが、地色や模様の色遣いによっては、八掛を替えても地味にならないことがあります。
その他
模様付きの八掛です。
(斧(よき)と琴と菊で「良き事を聞く」の意)
八掛の色に合わせて帯を選びました。
③八掛の選び方
カジュアル着物の八掛は、表地と近い色の物を選べば品良くよそ行きな感じになり、違う色だと個性的なおしゃれ着物になります。
どんなシーンで着たいかを考えながら色を選ぶと良いでしょう。
また、締めたい帯の色に合わせるのもひとつの方法ですが、長く着ていると帯1本では飽きるので、注意が必要です。
着物と八掛の色見本を合わせて呉服屋さんのアドバイスを聞きながら、最終的には自分がその時一番気に入った色を選ぶことをおすすめします。
何年かはその八掛で着ることになるので、納得のいくものを付けてもらってください。
3.フォーマルやセミフォーマルな着物の八掛
①留袖
黒留袖は共八掛で、模様があります。白の比翼が付いていても、裾裏の模様は風や動くことでチラリと見えます。
昔の黒留袖は裾裏の模様が左右対称に付いていました。
お引きずりをするとき、裾裏の模様を同じように出すためかもしれません。
比翼を取って着ている色留袖です。裾裏の模様はよく見えます。
②訪問着
共八掛
裏地にも絞りが施されています。
裾裏にも表と同じ模様があります。
裾裏も額縁で金彩加工が施されています。
その他
訪問着の中には共八掛ではないものもあります。
次回は八掛の失敗談です。