生地

弓浜絣と花織の帯

2016年10月22日

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今日は鳥取県の伝統的織物である弓浜絣をご紹介します。

 

1.弓浜絣(ゆみはまがすり)

弓浜絣とは鳥取県の弓ヶ浜半島(米子市、境港市)で製造されている絣で単に浜絣とも呼ばれます。絵絣で有名で、倉吉絣、広瀬絣とともに山陰の三絵絣の一つとされています。

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△弓浜絣の裂
『衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

 

2.弓浜絣の歴史

①はじまり

弓ヶ浜半島での絣織りは江戸時代中期、宝暦年間(1751~1763年)に始まったそうです。

米作りには適さない砂地であったため、弓ヶ浜では綿が盛んに栽培されました。質の良い伯州綿(はくしゅうめん)です。

それを元に作られたのが弓浜絣で、農民の自給用衣料として、また農家の副業として人々に受け継がれて来ました。

②最盛期と衰退

素朴な絵絣が人気となり、江戸末期から大正時代にかけて生産の最盛期を迎えたそうです。ところが工業化や時代の流れで次第に衰退して行き、第二次大戦後はほとんど作られなくなったそうです。

③弓浜絣の復興

弓浜絣の復興に尽力したのは嶋田悦子さんという女性です。

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△嶋田悦子さん(1929年~)
『衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

鳥取県境港市出身で戦後東京に住んでいた嶋田悦子さんは、展示会で目にした古い絣に魅力を感じます。

悦子さんの夫・太平さんは民芸運動*とつながりを持っていたため、悦子さんは民芸運動家・柳宗悦の甥で染織家の柳悦孝、悦博兄弟に師事し、織物を学び始めました。1956年のことでした。

*民芸運動…1926年(大正15年)、それまで重要視されなかった〈日常の暮らしで使われてきた手仕事の日用品〉の中に美的価値を見出だそうと、柳宗悦(やなぎ・むねよし)らによって始められた運動です。現在も活動は続けられ、東京・駒場の「日本民藝館」が拠点となっています。

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△日本民藝館

嶋田さんが織物を始めた頃はもう弓浜絣は作られていなかった為、復興への道は険しかったそうです。

実家が呉服店だった悦子さんは、母の協力を得て地元に残る古い絣を集め、お年寄りに糸を引いてもらい最初の1反を復元させたそうです。

そして1969年には夫と共に弓ヶ浜に帰郷。「工房ゆみはま」を立ち上げ、絣の製作に没頭しました。

復活した弓浜絣は、その後白洲正子の店『銀座こうげい*』でも扱われるようになりました。

*銀座こうげい…(銀座8丁目にあり、1956年頃から白洲正子が約15年間経営していた。その後は顧問的な立場で関わったという。1989年閉店)

 

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△白洲正子・銀座こうげいにて
『白洲正子のきもの』白洲正子・牧山桂子・青柳恵介・八木健司(新潮社)より

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△白洲正子デザインの『銀座こうげい』の畳紙

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△嶋田悦子作の弓浜絣(上・紗綾形<さやがた>文、下・亀甲に亀文)
衣匠美』白洲正子(世界文化社)より

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△白洲正子が着ていた弓浜絣。手前、お揃いのちゃんちゃんこは孫に着せたもの。
『白洲正子のきもの』白洲正子・牧山桂子・青柳恵介・八木健司 (新潮社)より

④弓浜がすり伝承館

弓浜絣は1975年に国の伝統的産業工芸品に指定され、嶋田さんは県無形文化財保持者に指定されました。

そして境港市麦垣町に、鳥取県弓浜絣協同組合が運営する「弓浜がすり伝承館」が作られ、産地維持・普及・後継者育成等の拠点となっています。

嶋田さんは現在も伝承館で後進の指導を熱心に行っているそうです。

リンク:弓浜がすり伝承館

 

3.弓浜絣・柄の特徴

弓浜絣は縁起の良い吉祥柄が多いようです。

松竹梅や鶴亀、七宝や青海波、麻の葉柄などが素朴な味わいの絣となって表現されています。

農家の婦人が自宅で家族の幸せを願いながら織った弓浜絣。
その絵絣には織り手の愛情がこめられていたのでしょう。

 

4.吉祥柄の絣と花織の帯

①鶴亀&松竹梅のきもの

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少し明るい藍の弓浜絣です。

 

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松竹梅に鶴亀という盛り沢山の柄でも、藍と白の絣柄はうっとうしい印象を与えません。

②花織の帯

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紬地の花織*の帯を合わせました。

*花織(はなおり)…沖縄で織られる特有の浮き織物のこと。経糸が緯糸を浮かせて小さな四角い点のような模様を織出します。花というより星に見えるものもあります。産地は読谷村、首里、与那国です。

 

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金茶色に近い山吹色でしょうか……。この黄色系のはっきりした帯は絣のきものに合うようです。

③更紗の帯でも……

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木綿のインド更紗をあわせてみました。

 

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バッグも綿素材の更紗模様です。

 

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木綿同士、そして個性派同士のきものと帯の組み合わせは楽しいものです。

 

5.風流柄を着る

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洗いざらしの母のお古の弓浜絣は風流な柄です。

 

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小野道風(おのの・とうふう/みちかぜ)と柳に蛙です。

有名な逸話*を絣で描いたもので、吉祥柄ではありませんが、親しみのあるテーマなので見る人をほっとさせます。

*逸話…小野道風(平安時代前期の書家)は、字が思うように書けないことに悩んでいました。そんな時、柳に蛙が飛びつこうと何度も挑戦している様子を見て自分の努力不足に気付き、スランプから脱して書の道に専心することができました。
あきらめずに努力すれば困難なことも成し遂げられるという教えとして、戦前は教科書にも載せられたそうです。また、花札に描かれていることでも有名です。

 

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弓浜絣を着た母(三十数年前の6月)

厚手で柔らかな弓浜絣は雨の季節でも安心して着られます。

 

6.展示会のお知らせ

10月~12月、大阪と東京で弓浜絣展が開催されます。

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きものや反物、小物などの展示即売会で、糸紡ぎの体験(大阪では機織りの体験も)ができるようです。

http://www.pref.tottori.lg.jp/260166.htm

 

 

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