茶色のきものを楽しむ

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今日は茶色のきものを取り上げます。茶色は老けて見えるので敬遠されがちですが、帯合わせを楽しむことができます。

1.着物の茶色

①四十八茶百鼠

着物の茶色にはさまざまな色があり、昔から日本人に愛されてきました。

「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」という言葉にも表されています。

江戸時代後期に幕府から出された奢侈(しゃし)禁止令(贅沢禁止法)で、庶民は「茶色」「鼠色」「藍色」など目立たない地味な色しか着られなくなっていたのですが、江戸の町人たちはその暗い色のなかに、四十八とか百という数字で表現されるほどの多様な色とその名前を生み出して行きました。

中には、団十郎茶、梅幸茶、芝翫茶など、歌舞伎役者の好みの色から付けられた色名もあります。

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△団十郎茶(歌舞伎十八番「暫」)(『新訂国語総覧』ーーより)

べんがらと柿渋で染めた色だそうです。

②目引き染め

白生地に染められたおしゃれな茶色がある一方、結果的に茶色になる着物もあります。

きものが古くなり、色あせやシミなどで着られなくなると、小紋など模様があるきものは色を掛けて目引き染めにするのですが、私の経験上、茶色に近くなることが多いです。

たとえば、ピンクや朱色の着物が派手になり、模様ごと色を掛けて地味にする場合、染料には透明度があり、下の地色の影響を受けるため、色を重ねて濃くしていくと茶系に近い色になるのです。

もちろん元の地色や掛ける色によって仕上がりは変わり、紫系、グレー系、ベージュ系など出来上がりはさまざまです。

予想より素敵な仕上がりになることも多いので、リメイクは悉皆屋さんや呉服屋さんとよく相談することをおすすめします。(無地の場合はいったん色を抜き、白に近い状態から染め直すことができるので、薄い色に仕上げることも可能です)

 

2.和の彩(いろどり)としての茶色

①茶色の名

染織研究家・随筆家の木村孝(たか)さんが「色」について記した『和の彩にみる 色の名の物語』には、美しい和の茶色が紹介されています。

 

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『和の彩にみる 色の名の物語』(木村孝著・世良武史写真 平成13年 淡交社)

この本では、茶色の種類として香(こう)色・金茶色・栗色・朽葉色・煤竹色・黄櫨染(こうろぜん)と禁色(きんじき)・琥珀色・紅殻(べんがら)色の8種類を取り上げ、さらにそれとは微妙に異なる色も多く紹介されています。

②木村孝さん愛用の茶色

和の彩にみる 色の名の物語』に掲載されている茶色のきものや帯を一部ご紹介します。

いずれも木村孝さんが愛用されたものと思われます。

金茶色

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△手描き友禅の訪問着

栗色

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△名古屋帯

朽葉(くちば)色

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△西陣紗織のコート

煤竹(すすたけ)色

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△夏帯

木村孝さんの著作に掲載されたご自身の着物姿は、美しいだけでなく深みが感じられます。

それは染色専門家の繊細なこだわりから生まれる色の取り合わせの魅力なのだと思います。

 

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△木村孝さん(1920-2016)(出典:木村孝(2016)『衣(きぬ)の声~ きものの本流を見つめて~』ハースト婦人画報社/講談社より)

木村孝さんについてはこちらでも取り上げています。

 

3.茶色の紬と織成の帯

今回着用したのはくすんだ赤茶色のきものです。

①山繭紬

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山繭紬(やままゆつむぎ)*です。もとは薄いベージュ系でした。

山繭紬…天蚕(ヤママユガ)の繭から採った糸を用いて織った紬。光沢があり、普通の絹糸と交織して染めると独特の模様が出ます。

 

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以前は派手な縮緬の羽織を合わせていました。

今回は羽織なしで、きものを楽しみたいと思いました。

②カラフルな織り帯で

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多色使いの織り帯を合わせました。

 

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織成(しょくせい)織りというものらしいです。

 

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綴れ織りに似ていますが、綴れ織りの特徴である「はつり」(色が変わるところの隙間)がなく、なめらかに色が変わっています。

趣味性が強い「洒落袋帯」で、今まではカラフル過ぎてなかなか締める機会がありませんでした。
茶色のきものなら落ち着くようです。

 

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多色使いの帯はどんな帯締めでも合うので、かえって迷います。

今回は苔色に近い黄緑色にしました。

 

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遊び心で若い頃の赤い襦袢を合わせてみました。

③朱赤の帯で

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朱赤の織り帯を合わせました。

 

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鴛鴦唐草文錦(おしどりからくさもんにしき)という龍村美術織物の開き名古屋帯(お太鼓は二重仕立て)です。

若い頃のお気に入りでしたが、もう締めることもないと思っていました。

久しぶりに虫干しをする気分で着用しました。

 

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帯揚げと帯締めは水色で揃えました。

 

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慣れない茶色で気後れしている自分を、朱赤の帯地が奮い立たせてくれる感じでした。

意外に合うので、これからも着用できそうな取り合わせだと思いました。

 

4.茶色のきもので老けて見られないためには?

確かに茶色のきもので「若見え」させることは難しく、年相応またはそれ以上に見えてしまう恐れがありますが、次のポイントに注意すれば、お洒落で都会的な着こなしに少しは近づけると思います。

①個性的な帯を合わせる

きものは茶色のキャンバスととらえ、帯で絵を描く感覚で個性的なものを取り合わせましょう。
帯周りに視線を集めることで茶色の印象が和らぎます。

②キリッと着付けて姿勢良く

着付けには個人差があり個性も大事ですが、いつもの着方よりシャープに着てみましょう。

衿元はすっきりと、おはしょりは分厚くならないように、お太鼓はあまりふっくらさせないほうが良いと思います。

帯揚げは結び目を整えて飾ります。

そして姿勢も大切です。若々しく背筋を伸ばしましょう。

 

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この日は後ろ姿が若々しく見えるように、お太鼓をカチッと大きめにしてみました。

③長襦袢のお洒落

地味な色の着物は長襦袢のお洒落を楽しめます。

今回私は若い頃のものを合わせただけですが、色の長襦袢を着ることで、「長襦袢にもこだわって、あえて茶色を着ています!」というふうにアピールできる可能性があります。

 

今日は茶色のきものに挑戦しました。

中高年にとって年齢相応な茶色のきものですが、それを少しでも素敵に若々しく見えるように着られたら良いですね。

私の今後の課題でもあります。

 

 

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