紙の博物館と紙布のきもの その1


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「紙の博物館」で『紙布~桜井貞子作品展~』が開催されています。今日は展示の様子と紙布のきものをご紹介します。

1.紙の博物館とは

①紙の博物館

東京都北区の飛鳥山公園内にある紙専門の博物館です。

和紙・洋紙を問わず、古今東西の紙に関する資料を幅広く収集・保存・展示する紙の総合博物館で、1950年(昭和25年)に開館しました。管理運営は、公益財団法人紙の博物館です。

王子は、明治初期に近代的な製紙工場のさきがけとなった抄紙会社(後の王子製紙王子工場)が設立された地で、”洋紙発祥の地”として知られています。

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△紙の博物館(4月5日撮影)

②飛鳥山と博物館

飛鳥山は江戸時代からの桜の名所です。それは徳川吉宗が1270本もの桜を植え、庶民に開放したことに始まるそうです。1873年(明治6年)に上野公園などと共に日本最初の公園に指定されました。

飛鳥山には「紙の博物館」のほかに、「渋沢史料館」*「北区飛鳥山博物館」という3つの博物館があり、三館連携して情報発信を行い、三館共通券を発行しています。

http://www.asukayama.jp/

*渋沢史料館…近代日本経済の基礎を作った渋沢栄一は、設立に尽力した王子製紙(設立当時は抄紙会社)の工場を見守ることができる飛鳥山に、邸を構えました。その跡地に1982年に開館したのが渋沢史料館です。園内に残る渋沢栄一の旧邸は国の重要文化財に指定されています。

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△渋沢史料館

③八分咲きの桜

4月5日、飛鳥山の桜はもうすぐ満開という状況でした。

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公園は小高い丘になっていて、ソメイヨシノ、サトザクラ、カンヒザクラなど、約600本にも及ぶ桜があるそうです。この日は日差しが眩しく桜が少し白く感じられましたが、ゆっくりとお花見ができました。

 

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「紙の博物館」の前にも見事な枝ぶりの桜がありました。

園内には桜のほか、約1万5000株のツツジと約1300株のアジサイも植えられていて季節の花が楽しめるようです。

 

2.紙布(しふ)とは

細く切った和紙をよって紙糸を作り、それを織った布のことで、軽くて肌触りが良く、丈夫で洗濯することもできるそうです。

タテ糸、ヨコ糸共に紙糸を使ったものを諸紙布(もろじふ)といい、タテ糸に絹・綿・麻を使い、ヨコ糸に紙糸を使って織ったものを、それぞれ絹紙布・綿紙布・麻紙布といいます。

江戸時代には山陰や東北地方など、木綿が貴重品だった地域で多く生産されたそうです。特に宮城県白石の紙布は名産品として知られ、将軍家にも献上されました。
(出典:『紙博だより』第70号「企画展紹介」)

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△展示会のチラシ

 

3.紙布作家・桜井貞子さん

紙布作家の桜井貞子さん(1929年~)は、和紙の優れた伝統と技術を残したいという情熱から紙布の制作を始めて40年、米寿を迎えられるそうです。

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△桜井貞子さん (5月13日『紙布~桜井貞子作品展~』の会場で)

①きっかけ

きものが好きで佐賀錦を作っていた桜井さんですが、佐賀錦は日常的なものではないので何か他の織りをやりたいと考えるようになりました。そこで柳悦孝 (やなぎ よしたか)氏*に相談したところ、白石紙布を見に行くことをすすめられました。

*柳悦孝… (1911年 – 2003年)日本の染織家。思想家・柳宗悦(やなぎ むねよし)の甥。

その時桜井さんは48歳。白石紙布の美しさと技術に魅せられた桜井さんは紙布制作を始めることになりました。

②苦労

白石紙布は門外不出のもので白石出身でないと教えてもらえない、という壁もあり、桜井さんは白石城主であった片倉家15代当主の協力を得て、片倉家に残る文献だけをたよりに自らその技法を解明していきました。

紙糸を作れるようになるまで1年3ヶ月を要したそうです。
(展示会場で上映されていたDVD『紙布一途 染織家 桜井貞子』2007年 常陽藝文センター制作 より)

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△ 紙糸(作品展の展示より)

 

4.作品展から

紙布展は6月4日まで開催中です。
http://www.papermuseum.jp/exhibit/temporary/2017/0318.html

現在後期の展示中ですが、3月に見た前期の展示からご紹介します。

①絹紙布

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タテが絹糸、ヨコが和紙
(和紙は茨城県の西ノ内紙)

②新作きもの

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展示会のために制作された絹紙布のきもの「春の小川」

③帯

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△ 諸紙布風通絣帯「竹垣花文」

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△ 型絵染芭蕉諸紙布帯「九輪草」
(芭蕉紙は糸芭蕉を原料にした琉球独特の紙)

③きもの

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△ 絹紙布風通絣紅梅織着物「満ちる春」

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△ 絹紙布着物「暮なずむ」

④ベスト

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△ 諸紙布ベスト(紅茶染)

 

5.紙布を着る

ゴールデンウィークの暖かい日に、紙布のきもの(単衣)を着てみました。

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茶色で地味なきものですが、紙布の魅力は何と言っても着心地です。

着るときは少しフワフワしてかさばる感じなのですが、帯を締め終わる頃には落ち着き、不思議なことに着物を着ている気がしません。

柔らかい和紙で織られたきものは畳まれるように体に添うので、重さを感じなくなるのかもしれません。
母が晩年好んで着ていた理由がよくわかります。

 

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帯は型染め、紬の帯です。友人とのランチに少し華やかさをと思い、帯留めをつけました。(翡翠のペンダントを三分紐に縫い付けたものです)

 

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△ 生地の拡大

タテ、ヨコ和紙ですが、濃い茶色の細い繊維は絹糸です。

 

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△きものの余り布

端の繊維を見ると、紙糸に絹糸が巻かれているのがわかります。

 

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帯と更紗の日傘の赤で、少し明るい雰囲気にしました。

 

6.制作実演会~紙糸を作る~

昨日(5月13日)、「紙の博物館」で紙布制作実演会が行われました。

紙布作家 桜井貞子さんと、西ノ内和紙の漉き手 菊池正氣さん お二人によるお話と、桜井さんの後継者 妹尾直子さんによる紙糸作りの実演でした。

実演を見て、紙糸づくりは想像以上に根気と技術が必要なことがわかりました。

※ 以下、企画展の説明ボードを引用しつつ、実演の様子をご紹介します

①紙を折る

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紙を4枚に重ねて半分に折り、3cm位上にはみ出すように折り返します。

②紙を切る

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4等分に切り分けてから切り込みを入れます。(上部3cmは残します。実演では2mm幅に切っていました。)

 

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切ったものを広げると、このようになります。

③紙を湿らす

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湿らせたタオルの間に切り込みを入れた紙を広げて重ね、ビニールで包み重石をのせて約7時間置きます。(タオルは使い込んだものを使用。水で濡らし洗濯機で脱水するそうです。)

④紙を揉む

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表面がザラザラした物の上で紙をもみます。

 

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揉んだら台に叩きつけて糸をほぐします。

 

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使われているのはビルの外壁とのことでした。このザラザラしたブロックの上で柔らかく揉み込んで和紙を細くしていきます。

 

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揉む、ほぐす を繰り返すと、全体がきれいな糸状になりました。

紙布作りを始めた頃の桜井さんは、③④の「紙を湿らせて揉む」という工程がわからず、何度も失敗を重ねたそうです。

昔の作り方を教えてもらえず1年以上を費やした紙糸作りですが、タオルとビニール、洗濯機やビルの外壁といった現代の道具を取り入れた桜井さん独自の工夫によって、次世代にもつながる方法として定着したようです。

 

長くなりましたので、続きは次回に。


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