続・テーマのある名古屋帯


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能の登場人物が頭に載せるかぶりものを描いた帯を前回から紹介しています。今日は冠の帯です。

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①烏帽子(えぼし)

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②冠(かんむり)

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③鳥兜(とりかぶと)

のうち、今日は②を取り上げます。

 

1.冠の帯について

能のかぶりものの中で、金属や革でできた輪状の冠を輪冠(わかんむり/りんかん)といいます。そこに人物に合わせたデザインの細工物を付けて、役柄を表しています。(龍、虎、狐、鷺、蝶など)

①鶴と亀の輪冠

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この帯は鶴と亀の冠を刺繍によって表現しています。

 

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鶴は金色の雲文様の冠に載っています。

 

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亀は銀色の青海波文様の冠に載っています。

この2つの冠は、能「鶴亀」のツレ(主人公であるシテに連れられて登場する人物)の二人がかぶるもので、この曲のみで使われるものです。

②見慣れない耳付きの亀

この帯の鶴は馴染みのある姿ですが、亀がちょっと変わっていると思う人もいるのではないでしょうか。

 

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まるでイタチのような姿で耳がはっきり描かれています。

耳付きの亀は、実は<贔屓(ひき・びし)>という中国における伝説上の生物のことです。

中国の伝説によると、贔屓は龍が生んだ9頭の神獣・竜生九子のひとつで、その姿は亀に似ている。

重きを負うことを好むといわれ、そのため古来石柱や石碑の土台の装飾に用いられることが多かった。

石碑の台になっているのは亀趺(きふ)と言う。

日本の諺「贔屓の引き倒し」とは、「ある者を贔屓しすぎると、かえってその者を不利にする、その者のためにはならない」という意味の諺だが、その由来は、柱の土台である贔屓を引っぱると柱が倒れるから

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▲石碑の台になっているのは亀趺(きふ)

(以上、ウィキペディアから抜粋引用)

そして、不老不死の仙人の住む「蓬莱山(ほうらいさん)」を七匹の<贔屓>が支えているとのことです。

また、中国の瑞獣の四霊(応龍・麒麟・霊亀・鳳凰)の一つである<霊亀>もよく似た存在で、同じように扱われることもあります。

つまりこの亀は長寿の象徴だけでなく、怪力と強い霊力を持った存在というわけです。

能楽観世流宗家伝来の装束にも耳付きの亀が見られます。

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▲ 花色二青海波亀袷狩衣(はないろじ せいがいはかめ あわせかりぎぬ)
(徳川秀忠公拝領)「二十五世観世左近記念 観世能楽堂会場記念公演」パンフレットより引用

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▲ 拡大(同じパンフレットから)

そしてこの装束と一対を成す鶴の狩衣は、花菱亀甲に鶴を織り出したものです。

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▲ 花色地亀甲鶴袷狩衣(はないろじ きっこうつる あわせかりぎぬ)(同じパンフレットから)

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▲ 拡大(同じパンフレットから)

 

2.能「鶴亀」について

①あらすじ

中国の宮殿で四季の節会(せちえ、季節の変わり目の祝祭)が催され、皇帝が役人と貴族からの拝賀を受け、万民もその場に集います。

拝賀が終わると、鶴と亀が舞い、皇帝の長寿を寿ぎます。

その後、皇帝は舞楽を奏させて自ら舞い、天下泰平、国土豊穣を祈り祝福します。

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▲ 鶴亀の舞台を描いたもの(観世流初心謡本(上)観世左近著 檜書店 より)

この絵のように、鶴と亀に扮するツレは、子方(こかた・子役のこと)が務めることが多く、その可愛らしい舞も見所になっています。

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▲ 鶴亀の輪冠とシテの皇帝が持つ唐団扇を描いたもの(前掲書より)

②日本人に好まれる「鶴亀」

「鶴亀」は能の現行演目の中では最も短いもので、おめでたい内容の能です。初心者向きの入門曲となっています。

そして能を元に作られた長唄の曲や、常磐津の曲などもあり、「鶴亀」は昔から日本人に愛されてきたようです。

<雛人形>

こんな可愛らしい鶴亀の舞台もあります。

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▲ 吉徳オリジナルの「能楽鶴亀雛」(東京・浅草橋 吉徳大光のカタログ『おひなさま』より引用)

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▲ 桧の能舞台で「鶴亀」を演じている人形(同じカタログから)

鶴と亀の輪冠を付けています。

<カード>

おめでたい和風絵柄としてカードにもなっています。

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和風カード「能楽 鶴亀」(株式会社 福井朝日堂製 より)

 

3.おまじないも「鶴亀」!

そういえば、今はあまり聞きませんが、時代劇や落語、小説などに出てくる、昔の人が使っているおまじない「つるかめつるかめ」も、不吉なことを打ち消すための言葉ですね。

おめでたい鶴と亀の力を借りて縁起直しをしています。

 

4.冠の帯着用例

①絞りのきものに

以前もご紹介した、私が40年以上着ている絞りのきもの(2016.4.24の記事参照)に合わせました。

 

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もう派手かしら?と着る度に迷うきものですが、この帯は意外にしっくり合い、きものの派手さを感じさせません。

緑の亀と、きものの青海波文様が馴染んでいるからでしょうか?

 

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名古屋帯で控えめな装いにしましたが、抑えた雰囲気の中でも、帯地に金糸が織り込まれていることや、刺繍が「鶴亀」であることで格が少し上がっているようです。

 

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後ろは鶴でおめでたい感じです。

 

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帯揚は目立たないピンクにし、帯締を引き立たせました。

挿し色になっている帯締の朱色は、能の鼓の「調べ緒」(鼓の胴に張られた革を締める紐)をイメージしました。

今までは金糸入りの袋帯を合わせていましたが、もともと絞りのきものは格とは無縁のお洒落着です。
この鶴亀の名古屋帯によって、かしこまらず渋めの装いになったのだと思います。

②紬のきものに

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藍の結城紬に合わせ、カジュアルに着てみました。帯ときものが同系色でぐっと落ち着いた雰囲気です。

 

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お太鼓の鶴も、おめでたい感じを控えめに主張しているようです。

 

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①と違い、帯揚は目立つ色にしました。帯締は冠の紐と同系色で、さらに明るい色を合わせました。

 

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こうすることで全体的に重いトーンを軽快にして、顔周りも華やかに見せられます。

 

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きものの唐草模様は亀が生きる海の波に見立てました。

 

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結城紬の亀甲絣(きっこうがすり)は亀の甲羅に似ているからこの名があります。

絣の柄も不思議とおめでたく見えてきました。

 

今回は縁起の良い鶴亀の話題でした。

 

 


この記事に対するコメント

2 Comments on "続・テーマのある名古屋帯"

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比江嶋孝子

何時も丁寧にレポートくださり楽しませて頂きます。
私もお仕舞やらお謡を稽古していますので、着物には大変興味があり、色々参考になります。